SWATに電源スイッチが無いわけ。
SWAT-200とSWAT-300/350には、いずれも電源スイッチがありません。そのため、一部のユーザー様から「電源スイッチが欲しい」とのご要望をお寄せいただくこともあります。しかし、SWATに電源スイッチが無いのはコストダウンのためではありません。「意識せずに充分なナラシ運転をしていただくため」なのです。
●ウォームホイールの半径とレンズの焦点距離
SWAT-300/350のウォームホイールは直径約105mmの大きなものです。半径は約53mmなので、ちょうど35mm判フルサイズの50mm標準レンズと同じくらいです。このことをしっかりイメージしてください。ウォームホイールとウォームネジの歯が摺動する部分の誤差(日周運動方向の僅かな動き)は、そのまま撮像素子上の星の追尾誤差に反映されるので、大きなウォームホイールは精度の面で非常に有利です。摺動部の誤差の原因は、歯切りの誤差、ウォームネジ軸受けの誤差、ウォームネジ回転時の圧力変化による速度誤差など様々です。ほとんどがウォームネジ一回転周期の、いわゆるピリォディックモーションとなって追尾誤差に現れます。
●機械精度をはるかに超えた要求精度
星野撮影に要求される追尾精度は、撮像素子のピクセルの大きさやレンズのシャープさによっても異なりますが、ここでは話を分かりやすくするため、最新型デジタルカメラのピクセルの大きさ約5μm(5/1000mm)の2倍の10μmの星像を基準としましょう。SWAT-300/350で、ウォームホイールとウォームネジの摺動部に±5/1000mmの非常に僅かな誤差が生じた場合、その誤差は撮像素子上に直接反映されるので、50mm標準レンズの星像10μmギリギリの追尾精度になってしまいます。角度に直すと±20″角となります。大きなウォームホイールと50mmレンズでも、この有り様ですから、300mm望遠レンズになると6倍もの精度が要求されます。もっと望遠になるとミクロンを通り越したナノレベルの、あり得ないほどの高精度が要求されます。実際には大気の暴れ(シンチレーション)で星像が膨らむため、それほどの精度は必要ありませんが、焦点距離の長い望遠レンズや望遠鏡のために、SWATにはオートガイダー端子が設けてあります。
●グリスの効果で安定した高精度を実現
SWATは可能な限りの高精度加工を施していますが、5/1000mmの誤差は機械加工精度の限界に近いです。ギアにはグリスが塗布されています。このグリスは安定した追尾精度を得るために欠かせないもので、潤滑の他にダンピング効果も期待できます。ギアとグリスを最適なコンディションに近づけるために「撮影開始前のナラシ運転」が重要です。ナラシをすることで、各ギヤのバックラッシュが安定すると同時にグリスがギヤに行き渡ります。その結果、良好な潤滑およびダンピングの持続状態が得られ、機械誤差を平均化して機械加工精度以上の精密な追尾が可能になると考えられます。
ポータブル赤道儀は撮影の準備が迅速にできるので、どうしてもナラシ運転の時間が少なくなります。電源スイッチがあるとOFFにしがちにもなります。そのためSWATには「意識せずに充分なナラシ運転をしていただくため」「安定した恒星時運転のときに撮影していただくため」に、あえて電源スイッチは設けないことにしました。
●常にナラシ運転を意識してお使いください
今後はご要望にお応えして電源スイッチを付けることがあるかもしれませんが、充分なナラシ運転のために、撮影の準備中には電源を入れるようにしてください。撮影の合間でも電源を切らないようにしてください。なお、SWATは東西の高速回転ができるので、撮影地までの移動中に高速のナラシ運転を行なうユーザー様もいらっしゃいます。このような方法も安定した恒星時運転のためにおすすめできます。
梅雨明けして、夏本番となりました。おかげさまで、SWAT-350の人気も高く、生産が追いつかない状態が続いております。8月上旬に次ロット分が仕上がってきますので、バックオーダーでお待ちのお客様にも、まもなくお届けできると思います。今回も数が少なめですので、お急ぎの方は販売店様にご予約いただけると幸いです。9月の生産では潤沢に在庫できる予定ですので、お待たせせずにお求めいただけると思います。今後とも、SWAT製品をよろしくお願いします。
http://www.unitec.jp.net/
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