以前、「追尾精度お気軽チェック!」というブログ記事で、どれくらいの焦点距離のレンズまでノータッチ可能かを簡単に調べる方法を書きましたが、今回はその続編で、ピリオディックモーションを数値で測ってみる方法をご紹介します。まず設置方法は前回と同様に極軸は合わせません。だいたい北に向けて設置します。ですから北極星が見えなくても大丈夫です。焦点距離は1000mmくらいがお勧めですが、400mmくらいでもそれになりに測定できます。気軽にやってみてください。
赤道儀の追尾精度は一般的にピリオディックモーションと呼ばれます。赤道儀のモーターが正確に回転していても、途中のギヤの精度不良で追尾速度は「速くなったり遅くなったり」を繰り返します。それでピリオディック(周期)モーション(運動)と呼ばれています。この周期は構造上、ウオームネジ1回転になるので、通常ウォームネジが一回転したとき、追尾速度が速くて西に動いたときと遅くて東に動いたときの正常値との誤差の幅を角度で表します。
これまで、星を点像に写すために必要な精度は、弊社ではおよそですが、50mm標準レンズで±40″、200mm望遠で±10″、400mm超望遠で±5″程度としています。デジタルカメラの撮像素子は詳細なので、『天文年鑑』(誠文堂新光社)などに以前から載っているフィルムの場合の数値よりも1.5~2倍ほど厳しく定めています。超望遠ともなるとシンチレーションで星像がボケるので、計算の精度より少し甘くても大丈夫なこともありますが、最新のデジタル対応レンズは解像度も高く、高画素化したカメラの性能と相まって、弊社の計算上の精度では足りないかもしれません。このあたりは、実際に星を撮って確認してみる必要がありますね。
赤道儀で日周運動を追尾しながら、真南の天の赤道付近を撮影してみましょう。都会の光害で、低感度に設定してもかぶる場合は、短時間露出にして比較明で合成しましょう。露出時間は一周期半くらいで充分です。あまり長くすると、星の軌跡が円弧を描くので、最大振幅がわかりにくくなります。高度をちゃんと合わせて真南を撮ればほぼ一直線に写りますが、あまり気にせずに撮りましょう。赤道儀の一周期はウォームホイールの歯数で計算します。24時間を「分」に直すと1440分です。これを歯数で割れば、何分かわかります。144歯なら一周期はちょうど10分ですね。この場合は15分も露出すれば充分です。早速撮影してみましょう。
さて上記を踏まえ、赤道儀を購入したら、どれくらいの追尾精度を持っているのか、まずは確認しておきたいところです。そうでないと、星を点像に写せる焦点距離と露出時間の目安がわからないまま撮影することになり、なかなか点像に写せないと悩むことになってしまいます。また固有のピリオディックモーションの特性を知っていれば、それを上手く利用して、撮影効率を高めることも出来ると思います。

これが撮影するレンズの方向です。SWAT本体の面に対してレンズが平行になるようにして真南に向けます。天の赤道から上下にズレると、その分結果が甘く出ます。上の写真はSWAT-350に200mm望遠を載せてますが、今回は300mm望遠に3×テレプラスを装着して900mmで撮影しました。結果は下の写真です。

焦点距離900mm、キヤノンEOS 6Dで10分間撮影したピリオディックモーションの画像。左がピクセル等倍で、右は拡大です。極軸の東西を狂わせて撮影すると星は南北に流れて写りますが、今回は下の吉田さんの写真に合わせるために横位置にしました。写真の左側が北で上側が西になります。SWAT-350のウォームホイールは210歯でウォームネジ一周7分弱ですから、約一周期半のモーションが記録されています。赤い線がピリオディックモーションによる最大振れ幅です。黄色い▲がボトム(東)とトップ(西)の位置。撮影した星の軌跡が正しく南北でなく斜めになった場合は(極軸の上下がズレているとそうなります)、少し回転させてかまわないので、正しく縦か横になるように調整してください。トップとボトムの位置にガイドラインを持ってきます。それぞれ星の光跡の幅の中心です。ガイドラインの幅を画像処理ソフトで超拡大して、何ピクセルか測ります。画像の例では10ピクセルになります。
次に1ピクセルあたり、どれくらいの角度か調べます。画角は便利な計算サイトで調べましょう。フルサイズで900mmの時の水平画角は「2.29152°」となりました。(カメラメーカーのサイトや取説には正確なセンサーサイズが記載されていますので、それを手動で入力すればより正確です) それを、撮影したモードの解像度で割ります。解像度はPhotoshopなどの画像処理ソフトで開いて「解像度」を見れば簡単にわかります。1ピクセルあたりの角度を調べるには、同じレンズで二重星を撮影したり、惑星を撮影して離角や視直径のピクセル数を数える手法もあります。意外に簡単なのが、月や太陽を撮影して測定する手法です。その日の月や太陽の視直径はプラネタリウムソフトなどでわかります。
EOS 6Dの幅(水平方向)は「5472」ピクセルです。これで先ほどの水平画角「2.29152°」を割ると、1ピクセルあたりの画角は「0.00041877192°」になり、角度の秒(″)に換算すると×60×60ですから1ピクセルは「1.5 ″」です。
1ピクセルあたり「1.5″」とわかったところで、これを撮影した画像にあてはめますと、トップとボトムの差は「10ピクセル」でしたから、トータルのピリオディックモーションは1.5″×10ピクセルでトータル15″、ピリオディックモーション±7.5″という数値が導き出せます。SWAT-350としては標準的な追尾精度です。
±7.5″はフィルム時代なら焦点距離400mmクラスを完璧にノータッチ出来る精度なんですが、デジタル時代になって、カメラもレンズも恐ろしいほど高解像になってきました。ですので、焦点距離200mm程度までなら安心してノータッチ出来る精度と考えた方がよいでしょう。それから撮影したモーションの星の光跡が、画像のように滑らかなことも重要です。滑らかであれば、露出時間をモーションの一周期よりも短くすることで、もっと長い焦点距離でも星を点像に写すことが出来ます。上の測定画像は10分間ですが、それを5分割して2分間分のモーションを考えてみれば、それぞれ±3秒角程度に収まると思います。それくらいあれば、400~500mmクラスで撮影しても、80%くらいの歩留まりを確保できると思います。運悪くボトムからトップに向かうところでシャッターが切れた一枚が少し流れるくらいでしょう。高感度に設定して、2分程度の露出で撮影枚数を稼ぎ、大量コンポジットで高画質を得る方法は、ある意味、理に適った方法といえます。
赤道儀によっては、この星の光跡が細かい周期でギザギザして、さらにそれが大きなサインカーブを描くようなものもあります。ギザギザの幅が大きいと、サインカーブの波に上手く乗れず、いくら露出時間を切り詰めても点像にならないこともあります。こんな時は焦点距離を短くするのが一番ですね。
最後に、SWAT-200と350ユーザーでもある関西のレジェンド、吉田隆行さんのサイトに掲載されている方法もご紹介します。


吉田さんが所有しているSWAT-200のモーションと二重星の合成画像です。ギザギザのない、とてもきれいなサインカーブを描いてますね。吉田さんは、あらかじめ離角のわかっている二重星を撮影しておいて、それから赤道儀の方位をわざとずらしてモーション撮影を行っています。もちろん同じ光学系です。二重星の17秒角(緑ライン)が13ピクセルなので、1ピクセルあたり1.31秒角になります。対してSWAT-200の最大振幅(赤ライン)が14ピクセルなので、トータル18.3秒、±9.2″のピリオディックモーションと読み取れます。吉田さんは控えめに「±10~14″前後」と書いてますけど、SWAT-200としては優秀な成績といえます。
赤道儀は同じモデルでも、それぞれ違ったピリオディックモーションになります。このあたりは機械ものですので、多少の「当たり」「外れ」が出てしまうのは仕方ないことですが、SWATシリーズは、できる限り一定のモーション幅に収まるようにギアまわりを入念に研磨して高精度を達成しています。SWAT-300/350は全機(SWAT-200は抜き取り)、実際に測定して、±7″前後を確認してから出荷しています。 赤道儀を購入したら、まずどれくらいの追尾精度を持っているのか測ってみましょう。そのうえで、その特性に合った使い方をするのが成功率を高める近道です。標準レンズも追尾できないほど精度の悪い製品も出回っているようですけど、そんな製品も広角専用と割り切って使えばよいのです。
http://www.unitec.jp.net/