コラム

2024年7月16日 (火)

【修正版】大気差グラフ



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ひとつの天体を長時間撮影すると構図が徐々にズレてくることがあります。それには複数の要因が絡んでくるのですが、大気差もそのひとつしてよく知られています。赤道儀がどんなに高精度に一定速で回っても、星の動きが微妙に変化しているのですから、長時間にわたって完璧に追尾するのは不可能なのです。
大気差とは大気の屈折で星が実際の位置より上に浮き上がって見える現象で、低空ほど大きく、天頂に近づくほど影響が小さくなります。その時の気圧や気温、湿度なども影響してくるので、簡単には表せません。また東西南北それぞれの星の軌跡が微妙に浮き上がることを考えると頭が混乱してしてしまいますね。

さて、今回天体写真愛好家のなかでも有名人揃いの星沼会で活動されているだいこもん様より、新たに計算しなおした大気差グラフをお送りいただきました。上がその最新グラフになります。再計算にあたっては国立天文台の沖田博文先生とも議論を重ねたとのことで、これまで知られていた大気差グラフよりかなり正確になったとのことです。だいこもん様もご自身のブログに掲載されてますので、ぜひこちらもご覧ください。
https://snct-astro.hatenadiary.jp/entry/2024/07/16/152714

グラフは北緯40°の地点での星の見掛けの速度になります。縦軸は極軸一回転の時間(秒)、横軸が天体の時角(方位)で0hが子午線(南中)、マイナスが東方向、プラスが西方向、6hが真西、12hが真北、18hと-6hでつながります。描かれた曲線が各赤緯値による見掛けの速度になります。以前、SWATブログに掲載した大気差グラフとはそこそこ違いがあり、天頂付近の天体の速度は恒星時でしたが、今回再計算された値はキングスレートとほぼ合致する速度で恒星時より遅いとう結果になっています。恒星時よりも見掛けの速度が速くなるのは赤緯50°以上の天体が北極星の下側を通過する場合のみとうことも示されています。ちょっと面白いのは赤緯+80°と赤緯0°の天体の南中の地平高度はどちらも50°(北緯40°)ですが、見掛けの速度が100秒以上も違っていたり、周極星の下方経過はけっこう速いこともわかります。いろいろ新発見があって新鮮な驚きでした。
実際の星座をざっくりとグラフにあてはめてみますとグレー破線(赤緯0°)はオリオン座、紫破線(赤緯-30°)がさそり座、黄実線(赤緯+40°)がこと座、黒実線(赤緯60°)がカシオペヤ座、緑実線(赤緯80°)がケフェウス座のとがった先端(γ星エライ)付近です。

再計算の結果をみても、いかにキングスレートが天体撮影に適した値かということがよくわかる結果となっています。SWATの駆動速度はキングスレートを採用しています。
 
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2021年4月25日 (日)

Premium仕様に搭載される新たな駆動モード。

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天体の日周運動は大気差によって常に変化していて一定ではありません。上のグラフは北緯40°の場所での天体の見かけの速度を表したもので、40年以上前に海外で発表されたデータを元に当時の天文ガイド誌が記事にしたもののトレースです。その肝心の元記事が見つからず、正確な見方がよくわかりませんが、だいたいは想像がつきますので、ちょっと解説してみます。縦軸は極軸一回転の所要時間でひとキザミが60秒です。ちなみに恒星時は86164秒です。横軸は天体が東から昇って地平高度15°に達した時点から西の空15°に傾くまでの所要時間で、ひとキザミは2時間です。曲線はそれぞれの赤緯値にある天体の見かけの速度の変化です。(元記事を読んでないので、解釈を間違っている可能性があります。正確な見方をご存じの方はぜひ教えていただければと思います。)
さて、この曲線は星の見かけの速度の変化を表していますが、一定の速度(横一直線になる)で日周運動する天体なんて、どこにもないことが分かります。しいていえば、赤緯0°~+40°くらいの天体の南中前後1時間くらいがほぼ一定といえるかもしれません。それどころか常に変動しているのです。ですから、恒星時にしろキングスレートにしろ、固定されたひとつの駆動速度だけでは、天空のどの星も正確に追尾するのは無理なことがご理解いだけると思います。SWATはこれまで、キングスレートと呼ばれる恒星時より極軸一回転で26秒遅い値を採用しています。このキングスレートはこのグラフでもわかるように、北緯40°の場所で赤緯0°の天体が南中したときの速度に合わせています。地平高度がそこそこ高くなった天体の平均的な速度ですから、とても汎用性が高く、通常のご使用にピッタリな速度になっています。近日発売のPremium仕様には、このキングスレート(極軸一回転86190秒)に加えて、理論的な恒星時(86164秒)と低空モード(86230秒)が追加されます。それぞれの速度に適したエリアは上のグラフの通りですが、恒星時は天頂付近の天体の速度にマッチします。具体的には、おおぐま座、はくちょう座、ぎょしゃ座、カシオペヤ座、アンドロメダ銀河などの子午線通過前後3時間程度に適合します。低空モードはアンタレスやさそりの尻尾付近、いて座などの天の川の低い領域やちょうこくしつ座、M83などの南中高度の低い対象に向いています。他にも東西で地平高度が低い対象にもマッチします。地平高度10°以下の昇りはじめや沈む直前は太陽時の方がさらに適しています。グラフを参考にして、それぞれのモードを使いこないしていただければ、より長焦点、長時間でのノータッチ撮影の成功率を高めることが可能です。SWATは長焦点長時間撮影でより完璧な追尾を目指すためのオートガイド(ST-4準拠)にも対応しています。
 
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2021年1月17日 (日)

撮影画像からPモーションを計測してみよう。

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購入した赤道儀がどれくらいの追尾性能を持っているかは、だれでも気になりますよね。でも、わざわざピリオディックモーション(Pモーション)を測定するのは面倒だという方は、すでに撮影した画像から計測してみてはいかがでしょうか。上の画像は、手もとにあったSWAT-350のデモ機にボーグ72FL+レデューサー(288mm)を載せてノータッチ撮影した画像です。露出は90秒です。(GIFが動かないときはクリックしてみてください)撮影したのはIC2177かもめ星雲ですが、本来は南中前後の赤道付近がいいです。それを外れると結果が甘くなったり、大気差で正確性が落ちることがあります。ま、あまり細かいことは気にせずにやりましょう。ウォーム一回転分の時間の連続して撮影した画像を用意します。恒星時で極軸一回転分の時間(86164秒、キングスレートでは86190秒)をウォームホイールの歯数で割ります。144歯なら10分間分、SWAT-350は210歯なので、6分50秒分が必要です。今回用意したのは90秒露出で4枚、トータル6分間の画像ですが、インターバルが約4秒×3で12秒あるので6分12秒間分です。少し足りてませんが、だいたいの計測なのでこれで進めます。4枚を位置合わせしないでそのまま比較明合成したのが下の画像です。赤経方向は左右です。青いラインを引いてみましたが、2ピクセルのズレがあります。次に1ピクセルの画角を求めます。求め方はこちらのブログに書いてありますのでご覧ください。で、1ピクセルは4.7″になります。2ピクセルのズレでトータル9.4″ですから、Pモーションは±5″くらいと計算できます。露出が若干足りてないことと、赤道から外れていますので、実際にはもう少し悪くて、±6″くらいと思います。そのほか、極軸設置誤差、大気差、機材の剛性不足による撓みなどが複合して影響してきますので、Pモーションがすべてではないですが、数周期分連続撮影して赤経方向に行ったり来たりしてる成分はPモーションとみて間違いないといえましょう。撮影途中にピント確認などで一時的に機材に触ると少しズレるので、精度測定の時には気をつけましょう。30分以上放置撮影した後半が安定してて良いと思います。この冬、赤道付近の馬頭星雲やオリオン大星雲を撮影した方は、その画像から計測してみてはいかがでしょうか。
 
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2019年4月24日 (水)

ラッピングの効果。

このところ、ブログもサボりがちになっておりまして申し訳ありません。たいしたネタも無いのですが、赤道儀の追尾精度を上げるための手法をひとつご紹介します。年明け1月5日のブログで「Pモーション±7秒角前後を達成するために…」という記事を書きました。その中でラッピングについて触れていますが、具体的にどれくらいの効果があるのでしょうか…  Photo_4  
グラフは、ウォームギアをラッピング処理する前後のモーションを計測したものです。縦軸がモーションの幅、横軸は時間で、ウォームネジ一回転になります。グラフ(上)はラッピング前に±13″だったものがラッピング後に±7.5″と大幅に精度がアップし、SWATの合格ラインに到達した例です。Pモーションが半分くらいまで小さくなっていますが、ラッピングによって、すべてがこれほど改善するわけではなく、多くは20~30%アップにとどまります。 グラフ(下)がその一例で、±20″だったものが±15″程度まで改善しています。今回、試しに±20″のネジをラッピングしていますが、合格ラインの±7″まで改善することは99%ないので、普段はラッピングすることはありません。それから、滅多にないことですが、意に反して悪くなってしまうこともあります。結果は計算できるものではなくて、経験によってだいたいは想像できるのですが、最終的にはやってみないとわからないところが、おもしろいです。

ここでのラッピングとは、研磨剤を使ってウォームネジとウォームホイールを摺り合わせ、より滑らかな動作を得る目的で行わる処理です。接眼部などの摺動部にも使われたりしますが、分解洗浄やグリスの再塗布などとても手間のかかる作業なので、一部の高級機にしか採用されていない処理技法です。具体的な方法は各社の企業秘密で、研磨剤の種類や番手、潤滑剤、処理時間、負荷のかけ具合など、結果に大きく影響する要素は公表されていません。弊社でも独自の研磨手法を確立してラッピング処理を行っております。SWATが採用しているジュラルミン(一部は超々ジュラルミン)のウォームホイールと真鍮のウォームネジの組み合わせは、超高精度加工に適しているうえ、ラッピングの効果も出しやすく、±7″前後の高精度追尾を実現するのに最適な素材といえます。

さて、いよいよGWに突入ですね。新月期と重なるので、晴れたらどこも賑わいそうです。みなさん、家族サービスも大事ですが、ストレス解消にはSWATで天体撮影するのが一番です。私も星空撮影を楽しみたいと思っています。
 
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2017年10月 6日 (金)

USBモバイルバッテリーのご使用について。

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SWATポータブル赤道儀は6V~12Vの幅広い電圧でご使用いただけるように設計されています。付属のバッテリーケースが9V用なのは、エネループで7.2Vで使えるようにしたためなのと、単三電池4本の6Vだと、最初は問題ないのですが、徐々に電圧低下を起こして、6V以下に低下してまい正常に駆動できなくなる恐れがあるためです。12Vでも問題ないのですが、モーターが過剰なトルクを出して、その発熱で電池を消耗します。そのため6~9Vくらいがお勧めの電圧です。
さて、最近USBモバイルバッテリーを電源として使用したいというお問い合わせが多くなってきました。USBモバイルバッテリーは容量の種類も多く、値段も下がってきたことから、お使いになりたいユーザー様もいらっしゃると思います。自己責任となりますが、簡単に流用できる方法をご紹介します。
上の写真は、amazonで1,600円で販売していた10000mAhのモバイルバッテリーをSWATの電源として流用した例です。USB出力ですから、5Vですので、そのままではSWATの電源として使えません。そこで、USB5Vを9Vに昇圧するDC-DCコンバーターが内蔵され、φ5.5センタープラスのDC電源ジャックに変換するケーブルを使用して駆動しています。このケーブルもamazonで800円ほどで販売しています。この組み合わせで、簡単にSWATの電源としてお使いいただけます。ご検討いただいているユーザー様のご参考になれば幸いです。ちなみに写真の組み合わせで12時間連続駆動してみたところ、バッテリー残量は40%以上ありましたので、残量表示がそこそこあてになるとすれば、フル充電で一晩は余裕です。
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様々な容量のモバイルバッテリーが販売されています。容量10,000mAhあれば15時間以上の駆動が可能です。上の写真はマジックテープでSWAT-350の背面に取り付けた例です。バッテリーはそこそこの重さがありますから、取付を工夫すれば、ウェイト代わりにも使えます。さらに容量の大きなバッテリーでしたら、ヒーターの電源としても使用できるでしょう。
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DC-DCコンバーターを内蔵した便利なケーブル。USB5Vを9Vに昇圧します。
 
※ご紹介のUSBモバイルバッテリーとケーブルは、実際に使用して問題なく使えることを確認していますが、ご使用にあっては自己責任とさせていただきます。粗悪な製品も多いため、ご購入の際には充分ご注意ください。また、SWATのDCジャックはセンタープラスです。極性を必ずご確認ください。
 
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2017年2月14日 (火)

追尾精度を測ってみよう。

以前、「追尾精度お気軽チェック!」というブログ記事で、どれくらいの焦点距離のレンズまでノータッチ可能かを簡単に調べる方法を書きましたが、今回はその続編で、ピリオディックモーションを数値で測ってみる方法をご紹介します。まず設置方法は前回と同様に極軸は合わせません。だいたい北に向けて設置します。ですから北極星が見えなくても大丈夫です。焦点距離は1000mmくらいがお勧めですが、400mmくらいでもそれになりに測定できます。気軽にやってみてください。

赤道儀の追尾精度は一般的にピリオディックモーションと呼ばれます。赤道儀のモーターが正確に回転していても、途中のギヤの精度不良で追尾速度は「速くなったり遅くなったり」を繰り返します。それでピリオディック(周期)モーション(運動)と呼ばれています。この周期は構造上、ウオームネジ1回転になるので、通常ウォームネジが一回転したとき、追尾速度が速くて西に動いたときと遅くて東に動いたときの正常値との誤差の幅を角度で表します。

これまで、星を点像に写すために必要な精度は、弊社ではおよそですが、50mm標準レンズで±40″、200mm望遠で±10″、400mm超望遠で±5″程度としています。デジタルカメラの撮像素子は詳細なので、『天文年鑑』(誠文堂新光社)などに以前から載っているフィルムの場合の数値よりも1.5~2倍ほど厳しく定めています。超望遠ともなるとシンチレーションで星像がボケるので、計算の精度より少し甘くても大丈夫なこともありますが、最新のデジタル対応レンズは解像度も高く、高画素化したカメラの性能と相まって、弊社の計算上の精度では足りないかもしれません。このあたりは、実際に星を撮って確認してみる必要がありますね。

赤道儀で日周運動を追尾しながら、真南の天の赤道付近を撮影してみましょう。都会の光害で、低感度に設定してもかぶる場合は、短時間露出にして比較明で合成しましょう。露出時間は一周期半くらいで充分です。あまり長くすると、星の軌跡が円弧を描くので、最大振幅がわかりにくくなります。高度をちゃんと合わせて真南を撮ればほぼ一直線に写りますが、あまり気にせずに撮りましょう。赤道儀の一周期はウォームホイールの歯数で計算します。24時間を「分」に直すと1440分です。これを歯数で割れば、何分かわかります。144歯なら一周期はちょうど10分ですね。この場合は15分も露出すれば充分です。早速撮影してみましょう。

さて上記を踏まえ、赤道儀を購入したら、どれくらいの追尾精度を持っているのか、まずは確認しておきたいところです。そうでないと、星を点像に写せる焦点距離と露出時間の目安がわからないまま撮影することになり、なかなか点像に写せないと悩むことになってしまいます。また固有のピリオディックモーションの特性を知っていれば、それを上手く利用して、撮影効率を高めることも出来ると思います。
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これが撮影するレンズの方向です。SWAT本体の面に対してレンズが平行になるようにして真南に向けます。天の赤道から上下にズレると、その分結果が甘く出ます。上の写真はSWAT-350に200mm望遠を載せてますが、今回は300mm望遠に3×テレプラスを装着して900mmで撮影しました。結果は下の写真です。
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焦点距離900mm、キヤノンEOS 6Dで10分間撮影したピリオディックモーションの画像。左がピクセル等倍で、右は拡大です。極軸の東西を狂わせて撮影すると星は南北に流れて写りますが、今回は下の吉田さんの写真に合わせるために横位置にしました。写真の左側が北で上側が西になります。SWAT-350のウォームホイールは210歯でウォームネジ一周7分弱ですから、約一周期半のモーションが記録されています。赤い線がピリオディックモーションによる最大振れ幅です。黄色い▲がボトム(東)とトップ(西)の位置。撮影した星の軌跡が正しく南北でなく斜めになった場合は(極軸の上下がズレているとそうなります)、少し回転させてかまわないので、正しく縦か横になるように調整してください。トップとボトムの位置にガイドラインを持ってきます。それぞれ星の光跡の幅の中心です。ガイドラインの幅を画像処理ソフトで超拡大して、何ピクセルか測ります。画像の例では10ピクセルになります。

次に1ピクセルあたり、どれくらいの角度か調べます。画角は便利な計算サイトで調べましょう。フルサイズで900mmの時の水平画角は「2.29152°」となりました。(カメラメーカーのサイトや取説には正確なセンサーサイズが記載されていますので、それを手動で入力すればより正確です) それを、撮影したモードの解像度で割ります。解像度はPhotoshopなどの画像処理ソフトで開いて「解像度」を見れば簡単にわかります。1ピクセルあたりの角度を調べるには、同じレンズで二重星を撮影したり、惑星を撮影して離角や視直径のピクセル数を数える手法もあります。意外に簡単なのが、月や太陽を撮影して測定する手法です。その日の月や太陽の視直径はプラネタリウムソフトなどでわかります。 

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EOS 6Dの幅(水平方向)は「5472」ピクセルです。これで先ほどの水平画角「2.29152°」を割ると、1ピクセルあたりの画角は「0.00041877192°」になり、角度の秒(″)に換算すると×60×60ですから1ピクセルは「1.5 ″」です。

1ピクセルあたり「1.5″」とわかったところで、これを撮影した画像にあてはめますと、トップとボトムの差は「10ピクセル」でしたから、トータルのピリオディックモーションは1.5″×10ピクセルでトータル15″、ピリオディックモーション±7.5″という数値が導き出せます。SWAT-350としては標準的な追尾精度です。

±7.5″はフィルム時代なら焦点距離400mmクラスを完璧にノータッチ出来る精度なんですが、デジタル時代になって、カメラもレンズも恐ろしいほど高解像になってきました。ですので、焦点距離200mm程度までなら安心してノータッチ出来る精度と考えた方がよいでしょう。それから撮影したモーションの星の光跡が、画像のように滑らかなことも重要です。滑らかであれば、露出時間をモーションの一周期よりも短くすることで、もっと長い焦点距離でも星を点像に写すことが出来ます。上の測定画像は10分間ですが、それを5分割して2分間分のモーションを考えてみれば、それぞれ±3秒角程度に収まると思います。それくらいあれば、400~500mmクラスで撮影しても、80%くらいの歩留まりを確保できると思います。運悪くボトムからトップに向かうところでシャッターが切れた一枚が少し流れるくらいでしょう。高感度に設定して、2分程度の露出で撮影枚数を稼ぎ、大量コンポジットで高画質を得る方法は、ある意味、理に適った方法といえます。

赤道儀によっては、この星の光跡が細かい周期でギザギザして、さらにそれが大きなサインカーブを描くようなものもあります。ギザギザの幅が大きいと、サインカーブの波に上手く乗れず、いくら露出時間を切り詰めても点像にならないこともあります。こんな時は焦点距離を短くするのが一番ですね。
 
最後に、SWAT-200と350ユーザーでもある関西のレジェンド、吉田隆行さんのサイトに掲載されている方法もご紹介します。
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吉田さんが所有しているSWAT-200のモーションと二重星の合成画像です。ギザギザのない、とてもきれいなサインカーブを描いてますね。吉田さんは、あらかじめ離角のわかっている二重星を撮影しておいて、それから赤道儀の方位をわざとずらしてモーション撮影を行っています。もちろん同じ光学系です。二重星の17秒角(緑ライン)が13ピクセルなので、1ピクセルあたり1.31秒角になります。対してSWAT-200の最大振幅(赤ライン)が14ピクセルなので、トータル18.3秒、±9.2″のピリオディックモーションと読み取れます。吉田さんは控えめに「±10~14″前後」と書いてますけど、SWAT-200としては優秀な成績といえます。
  
赤道儀は同じモデルでも、それぞれ違ったピリオディックモーションになります。このあたりは機械ものですので、多少の「当たり」「外れ」が出てしまうのは仕方ないことですが、SWATシリーズは、できる限り一定のモーション幅に収まるようにギアまわりを入念に研磨して高精度を達成しています。SWAT-300/350は全機(SWAT-200は抜き取り)、実際に測定して、±7″前後を確認してから出荷しています。 赤道儀を購入したら、まずどれくらいの追尾精度を持っているのか測ってみましょう。そのうえで、その特性に合った使い方をするのが成功率を高める近道です。標準レンズも追尾できないほど精度の悪い製品も出回っているようですけど、そんな製品も広角専用と割り切って使えばよいのです。
  
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2016年6月27日 (月)

追尾精度お気軽チェック!

赤道儀の追尾精度を現すのにピリオディックモーションの値が使われますが、ご自身で測定するとなると、ちょっと面倒ですよね。簡易的な方法として、お使いの赤道儀で撮影したい焦点距離のレンズがノータッチガイドできるかを知るための、簡単な方法がありますのでご紹介します。ご自宅のベランダでもできますので、ぜひお試しください。
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まず、機材をセッティングしますが、このとき極軸は合わせません。だいたい北に向けて設置します。ですから北極星が見えない南向きのベランダでも大丈夫です。あまりズレが大きいと撮影したときの星の軌跡が長く伸びますので、そんなときは適宜調整してください。そして、恒星時駆動させたまま真南の天の赤道付近を撮影します。東京での地平高度は55度くらい。上の画像のような角度にセットすればOKです。天の赤道から上下にズレると、その分結果が甘く出ます。
撮影に使いたいレンズで、明るい星でピント合わせをしてから、真南の天の赤道付近に向けて撮影します。このとき、向けた方向に星が見えなくても撮影すると何かしら星が写ります。写らなかったら、少し向きを変えてやり直しましょう。露出時間は10分から15分くらいでよいでしょう。これでウォームネジ1~2回転分くらいは記録できます。露出時間が長いので、光害があるとカブってきますが、あまり絞ると極限等級が下がるので、そんな時は下の参考画像のように短時間露出を繰り返し、比較明で合成しましょう。
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参考画像は、私が普段愛用しているSWAT-350を使って、ユニテックのある目黒区で撮影しました。このSWAT-350の追尾精度は以前測定して±7秒角前後を確認した個体です。カメラはキヤノンEOS6D。さすがに光害がひどいので、絞りはF4開放ですが、ISO100で3分露出を4秒間隔で5回繰り返して、トータル15分間を比較明で合成しました。撮影した焦点距離のレンズでノータッチガイド可能なら、星の軌跡は直線になります。ピリオディックモーション±7秒角は、フィルム時代なら300mm程度までノータッチ可能な精度とされていましたが、最近はデジタル時代で許容値がやや厳しくなってきた感があります。なので、200mm程度はノータッチ可能とした方がいいかもしれません。さて、上の画像の左は100mmの時の軌跡です。ほぼ直線です。まったく問題なくノータッチ可能な精度と判断できます。右は200mmの時の軌跡です。15分間ですから、およそウォームネジ2回転分のピリオディックモーションが左右の振れとなってわずかに現れています。ピクセル等倍で確認すると2ピクセル分になります。ただ、これくらいの量は、シンチレーションや長時間露出の星の滲みで、ほとんど問題にならないものです。ちなみに6Dの場合、200mmの時の1ピクセルあたりの角度はおよそ6.7秒です。トータル2ピクセルのズレは、13.4秒になりますので、±7秒程度の精度と計算できますが、それなりに正確には測るには1,000mm以上の焦点距離が欲しいです。ここでは、±7秒角の精度があれば、焦点距離200mmで右くらいの軌跡になるということを理解していただければと思います。もしギザギザがひどかったり、大きく波打っていたら相当精度が悪い赤道儀です。軌跡が長くなるとフレがわかりにくいので、気をつけましょう。

こんな簡単な方法ですが、ちゃんと直線に写るかで、お手持ちの赤道儀の追尾精度がある程度判断できます。自分が使いたい焦点距離のレンズで調べて、直線に写れば、ノータッチOKです。ピリオディックエラーのフレが出ても、それが滑らかな曲線であれば、撮影時間を調整して星を点像に写すことができます。ちょっと補足ですが、極軸の高度を正しくして東西をわざと狂わすと、星の軌跡が作例のように正しく南北に流れます。高度も大きく狂っていると、星の軌跡が斜めに流れて検証精度が落ちますが、まぁ堅いことは言わずに「このレンズがノータッチで使えるかな?」くらいの確認のつもりでやってみるのもありです。自分の赤道儀が、どれくらいの焦点距離まで対応できるか、ぜひ試してみてください。

株式会社輝星のブログに高槻さんが書いた関連情報はこちら

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2015年1月15日 (木)

SWATのウォームホイール

Swat 今回はウォームホイールのお話です。SWATシリーズ赤道儀のウォームホイールは、厚さ3mmのジュラルミン製です。普通の赤道儀のウォームホイールの厚さは10mm程度の物が多いので、比べるとかなり薄いことがわかりますが、メリットとして、軽量化の他に線膨張係数が筐体のアルミ材とほとんど同じなため、氷点下の過酷な環境で使用してもギヤの噛み合わせが変わらないということがあります。では、薄くても大丈夫なのかという疑問も湧いてくると思いますので、ご説明します。普通の赤道儀のウォームホイールとギヤは、ウォームホイールの歯面のR(凹)よりもウォームネジのRの方がずっと小さいので、実際には図のようにギヤ同士の中央部しか接していません。ギヤ同士は線接触をしています。下の写真は使い込んだ一般の赤道儀のウォームホイールですが、ウォームネジと線接触した部分が黒く変色しています。この触れる部分は0.5mmにも満たない僅かな幅なのです。このことから、ホイール自体の強度が充分に確保されていれば、3mmの厚みでも何の問題もないことがわかります。

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さて、SWATのウォームホイールの素材は軽量で強度のあるジュラルミン製です。その板からモジュールに対応したサイクロイドカーブの平ギヤ状歯型を切り出しています。その原材をもとに、独自手法のホブでさらに歯切りを行い、最終的に実機のウォームネジと組み合わせて仕上げ研磨をしています。

下の写真は原材のウォームホイール(右)と仕上げの完了したウォームホイール(左)です。歯面がウォームネジのRと同じになって、ネジ状に傾きが生じていることがわかります。ウォームホイールの歯面は最初の図のようにウォームネジのRにぴったり面接触をするので、ウォームホイールの厚みは3mmですが、中央の0.5mmしか接していないウォームギヤに比べて、はるかに安定して丈夫であることがわかります。また、ウォームホイールは歪みを防ぐために精密に設計されたアルミ削り出しの筐体でサンドイッチされ、ウォームホイール上下面のグリスを介して摺動します。これはスムーズで高精度な回転を得るためのSWAT独自の手法です。

今回は、SWATシリーズの優れた追尾性能を生み出す秘密のひとつをご紹介しました。

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2015年1月 5日 (月)

SWATのステッピングモーターについて。

Motor  SWATシリーズ赤道儀は、定格6~12Vの超小型高精度ステッピングモーターを採用しています。画像は最近のロットのSWAT-350の内部ですが、このようにモーター自体は非常にコンパクトです。ステッピングモーターは小型ほど高回転で回せるメリットがあり、ギヤ比を高めることができることから、結果的に本格的な赤道儀でも確実に駆動できるパワーが得られます。「モーターは大きいほうがパワーが出る」ことは間違いありませんが、赤道儀の駆動に関しては当てはまりません。さらに、このモーターには既存の赤道儀用PM型ステッピングモーターよりも、はるかに上等なギヤヘッド(減速比1/72)が装着されており、そのためギアヘッド由来のモーションが非常に小さく、高い追尾精度に寄与しています。SWATの優れた追尾性能は、高精度に研削されたウォームギヤユニットとこの超小型ステッピングモーターの組み合わせで実現できたのです。

 さて、駆動時の電圧についてですが、SWATシリーズは6~12Vと幅広い電圧域で動作します。6Vではトルクは小さくなりますが、静かで消費電力も小さいため電池での駆動時間も延びます。逆に12Vではトルクは大幅にアップしますが、モーターの動作音が大きくなり、モーターもかなり発熱することから消費電力も大きく、電池の消耗も激しくなります。6V駆動ですと極端にバランスが崩れた場合などにパワー不足になる可能性があるため、安全をみて単3形乾電池6本で9Vの電池ボックスを標準装備としています。エネループ電池6本の7.2Vでも充分にハイパワーですのでお勧めです。12Vでのご使用も可能ですが、モーターの発熱が大きいので、9Vに降圧した方が良いかもしれません。一般的なカーバッテリーは12Vですが、充電直後などには出力が15V近くになることがあり、そのままでは電子回路を破損する危険があるので、絶対に直結しないでください。ご使用に際しては必ず指定電圧範囲まで降圧してください。なお、付属の電池ボックス以外でのご使用は自己責任となります。電圧と極性に充分ご注意ください。

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2014年7月23日 (水)

SWATに電源スイッチが無いわけ。

35dc SWAT-200とSWAT-300/350には、いずれも電源スイッチがありません。そのため、一部のユーザー様から「電源スイッチが欲しい」とのご要望をお寄せいただくこともあります。しかし、SWATに電源スイッチが無いのはコストダウンのためではありません。「意識せずに充分なナラシ運転をしていただくため」なのです。

●ウォームホイールの半径とレンズの焦点距離

SWAT-300/350のウォームホイールは直径約105mmの大きなものです。半径は約53mmなので、ちょうど35mm判フルサイズの50mm標準レンズと同じくらいです。このことをしっかりイメージしてください。ウォームホイールとウォームネジの歯が摺動する部分の誤差(日周運動方向の僅かな動き)は、そのまま撮像素子上の星の追尾誤差に反映されるので、大きなウォームホイールは精度の面で非常に有利です。摺動部の誤差の原因は、歯切りの誤差、ウォームネジ軸受けの誤差、ウォームネジ回転時の圧力変化による速度誤差など様々です。ほとんどがウォームネジ一回転周期の、いわゆるピリォディックモーションとなって追尾誤差に現れます。

●機械精度をはるかに超えた要求精度

星野撮影に要求される追尾精度は、撮像素子のピクセルの大きさやレンズのシャープさによっても異なりますが、ここでは話を分かりやすくするため、最新型デジタルカメラのピクセルの大きさ約5μm(5/1000mm)の2倍の10μmの星像を基準としましょう。SWAT-300/350で、ウォームホイールとウォームネジの摺動部に±5/1000mmの非常に僅かな誤差が生じた場合、その誤差は撮像素子上に直接反映されるので、50mm標準レンズの星像10μmギリギリの追尾精度になってしまいます。角度に直すと±20″角となります。大きなウォームホイールと50mmレンズでも、この有り様ですから、300mm望遠レンズになると6倍もの精度が要求されます。もっと望遠になるとミクロンを通り越したナノレベルの、あり得ないほどの高精度が要求されます。実際には大気の暴れ(シンチレーション)で星像が膨らむため、それほどの精度は必要ありませんが、焦点距離の長い望遠レンズや望遠鏡のために、SWATにはオートガイダー端子が設けてあります。

●グリスの効果で安定した高精度を実現

SWATは可能な限りの高精度加工を施していますが、5/1000mmの誤差は機械加工精度の限界に近いです。ギアにはグリスが塗布されています。このグリスは安定した追尾精度を得るために欠かせないもので、潤滑の他にダンピング効果も期待できます。ギアとグリスを最適なコンディションに近づけるために「撮影開始前のナラシ運転」が重要です。ナラシをすることで、各ギヤのバックラッシュが安定すると同時にグリスがギヤに行き渡ります。その結果、良好な潤滑およびダンピングの持続状態が得られ、機械誤差を平均化して機械加工精度以上の精密な追尾が可能になると考えられます。
ポータブル赤道儀は撮影の準備が迅速にできるので、どうしてもナラシ運転の時間が少なくなります。電源スイッチがあるとOFFにしがちにもなります。そのためSWATには「意識せずに充分なナラシ運転をしていただくため」「安定した恒星時運転のときに撮影していただくため」に、あえて電源スイッチは設けないことにしました。

●常にナラシ運転を意識してお使いください

今後はご要望にお応えして電源スイッチを付けることがあるかもしれませんが、充分なナラシ運転のために、撮影の準備中には電源を入れるようにしてください。撮影の合間でも電源を切らないようにしてください。なお、SWATは東西の高速回転ができるので、撮影地までの移動中に高速のナラシ運転を行なうユーザー様もいらっしゃいます。このような方法も安定した恒星時運転のためにおすすめできます。


梅雨明けして、夏本番となりました。おかげさまで、SWAT-350の人気も高く、生産が追いつかない状態が続いております。8月上旬に次ロット分が仕上がってきますので、バックオーダーでお待ちのお客様にも、まもなくお届けできると思います。今回も数が少なめですので、お急ぎの方は販売店様にご予約いただけると幸いです。9月の生産では潤沢に在庫できる予定ですので、お待たせせずにお求めいただけると思います。今後とも、SWAT製品をよろしくお願いします。

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