【目次】
11-1. ここから先はレタッチ
11-2. 盛大な星ハロ
11-3. 星ハロのマスクを作ろう
(1) Starmask(スターマスク)を作ろう
(2) ハロのHue(色相)値を確認しよう
(3) カラーマスクを作ろう
(4) ハロマスクを作ろう
11-4. Morphology(モルフォロジー)
11-5. 星ハロ除去
11-6. もうひと声
(1) 青い星
(2) 緑色の星?
11-1. ここから先はレタッチ
前回でストレッチまで終わり、これで現像がひとまず終わったことに相当すると言いました。この段階でも、撮って出し画像と比べればとても同じ写真とは思えないほどに綺麗になっているはずなので、初心者のレベルなら、ここまででも十分ではないかと思います。

図11-1. 撮って出し画像との比較
ここから先の処理は、すべての天体写真に絶対に必要な処理というわけではありません。できた画像を見て、必要に応じてやれば良いものと思ってください。
また、ここから先はレタッチ(加工)であり、レタッチソフトでもだいたい同じことはできると思います。いや、むしろレタッチソフトの方が本職なので、何も無理して PI を使わなくても良いと思いますが、ここから先も強力なツールは用意されているので、このまま PI で処理を続けましょう。
ただ、はじめにお断りしておきますが、今回は「入門」からは完全に逸脱します。あまり馴染みのないプロセスを見たこともないような手法で使うという怒涛の連続スマッシュが飛んでくるので、初心者にはちょっとキツイかもしれませんが、ご容赦ください。
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11-2. 盛大な星ハロ
それでは、ストレッチが終わった画像を改めて見てみましょう。

図11-2. 星ハロ(全体と2:1拡大)
前回、前々回の段階で既に気付いていた人もいると思いますが、拡大すると、比較的明るい(かと言って輝星ほど明るくはない)星の周りがマゼンタになっていたり、赤くなっていたりするのがわかります。これはいわゆる「星ハロ」ですね。写野全体に等しく出ているわけではなく、中央部分に集中しているように思えますが、かなり盛大に出ています。これは、R(赤)のピントが合っていなくて、R の星像が肥大化していることが直接の原因です。

図11-3. Rの星像が肥大化している(RとGとの比較)(中央部を2:1拡大)
そのため、元々青かった星の周りがマゼンタになり、元々黄色やオレンジ色だった星の周りが赤くなっているのです。このように、R/G/B でピントの位置が僅かに違うというのはよくある話です。高級な光学系ならここまで酷くなることはないでしょうから、必要のない方は今回はまるっと読み飛ばしてください。ただし、そんな高級な光学系ばかりを使って楽をしていると、いざという時の処理テクニックが身に付きません。一度はこういう苦労をしておいた方が良いと思いますよ(笑)。とにかく、写ってしまっている以上は仕方がないので、この星ハロを何とかして除去しましょう。
星ハロの除去方法にも幾つかあります。例えば、レタッチソフトの中には「フリンジ除去」と呼ばれる機能があるものもあります。それを使うのが一番手っ取り早いのですが、それだと星の元の色の復元は難しいですよね。また、星ハロ以外の部分、例えば星雲の色にも影響を及ぼさないか、ちょっと不安です。
では、どうやるのか。しかも、ただ除去するだけではなく、星の元の色もなるべく復元するにはどうすれば良いのか。今回は最もオーソドックスかつ直接的な方法でやります。
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11-3. 星ハロのマスクを作ろう
先ほど、R の星像が肥大化しているのだと言いました。だったら R の星像を小さくすれば良い のです。これから、そのための準備をしましょう。
(1) Starmask(スターマスク)を作ろう
まず第一段階は、スターマスクを作ることから始めます。要するに、星だけを抜き出してマスク化するのです。スターマスクを作る方法にも幾つかあり、PI にはその名もずばり StarMask というプロセスもあるのですが、今回はこれは使いません。いきなり入門レベルを逸脱します(笑)。
代わりに、第4回でも登場した MultiscaleLinearTranstorm (MLT) を使います。MLT は色んな用途で使える便利なツールでして、おそらく開発者は意図してはいなかったと思いますが、スターマスクを作るのにも使えます。
まず、メニューバーから IMAGE > Extract > Lightness と辿って、対象画像の L画像を抽出します。ツールバーにも "Extract CIE L* component" というアイコンがあるので、それを押しても抽出できます。

図11-4. L画像を抽出

図11-5. 抽出されたL画像(中央部を2:1拡大)
これがスターマスクの土台となります。左枠の画像名のタグをダブルクリックすれば、画像名を変えることができますので、スターマスクだとわかる名前に適宜変更しておくと良いでしょう。
続いて、MLT を次のように設定します。

図11-6. スターマスク作成用に MLT を設定(例)
MLT のリスト部分に表示されるレイヤーの数は、右上の Layers から選択することができます。ハロが発生している星の大きさに応じて Layers の値を適宜変えてください。一番下の R のチェックを外すのがミソです。Layer 1 のチェックを外しているのは、第4.5回でも述べたように、どうせこれはノイズ主体のレイヤーだからです。これを先ほどの L画像に対して実行して STF でオートストレッチすると、次のようになります。

図11-7. MLT実行後(中央部を2:1拡大)
ほぼ星だけが残ります。しかし、星以外のものも残っていると思いますので、STF のシャドウ及びミッドトーンを動かすことによってこれを消し、星だけが残るようにします。これを HT を介して反映すれば、スターマスクの完成です。(STF は見かけ上の明るさを変えるだけなので、HT を通して反映させる必要があることを思い出してください。)

図11-8. starmask(中央部を2:1拡大)
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(2) ハロのHue(色相)値を確認しよう
準備の第二段階は、星ハロの色の範囲を数値的に確認することです。PI のウインドウの下枠に三角マークがありますよね。ここから Readout のオプションが選択できます。この三角マークを押して、Readout Data > CIE L*c*h* を選択してください。

図11-9. Readout Options
CIE L*c*h* とは、色空間の一種で、L は明るさ、c は彩度、h は色相をそれぞれ意味します。この状態で画像の任意の点をマウスで長押しすると、そのピクセルの L/c/h の値をそれぞれ確認することができます。L と c は 0~1 の値ですが、h は 0~360 の値で表現されます。これで星ハロの色相を確認します。

図11-10. Readout で星ハロの色相を確認
今回の画像の場合、マジェンタのハロの色相値は 320 以上、赤のハロは 40 以下であるようでした。ハロ部分の色相値がわかったら、その色相値のピクセルだけを抜き出したマスクを作りましょう。
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(3) カラーマスクを作ろう
準備の第三段階です。第10回にも登場した PixelMath (PM) にここでも再登場してもらいます。この PM に次のように書いてください。
RBG/K: k * iif((CIEhd($T)>mag)||(CIEhd($T)<red), CIEc($T), 0)
Symbol: k=2, mag=320, red=40

図11-11. PixelMath
iif(x, a, b) というのは、x が正しければ a の値を、正しくなければ b の値を返しなさい、という意味の論理式です。Excelの関数なんかでもよく見ますよね。で、その中に書かれている CIEhdr() というのは、そのピクセルの色相値を返す関数で、CIEc() は彩度の値を返す関数です。したがって、この式は、この画像の中で色相値が mag より大きいかまたは red 未満のピクセルを抜き出し、その彩度の値を輝度に置き換えて画像を作りなさい、という意味です。ここではこれをカラーマスクと呼ぶことにしましょう。なお、iif(x, a, b) や CIEhdr()、CIEc() は Expression Editor から選択・入力することができます。
図11-11 の PM を 図11-2 に対して実行すると、次のようなカラーマスクが得られます。

図11-12. カラーマスク
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(4) ハロマスクを作ろう
さあ、準備の最終段階に入ります。このカラーマスクには星ハロが含まれています。しかし、色相値の条件だけで抽出すると、星ハロ以外のピクセル(例えば星雲)も同時に含まれてしまいます。このカラーマスクから、星ハロだけを抜き出すにはどうすれば良いでしょうか。ピンときた人もおられるでしょう。そうです。(1)で作ったスターマスク(図11-8)にはハロを含めた星だけが抜き出されていますから、スターマスクとカラーマスクをかければ(掛け算すれば)良いのです。
「2つのマスクを AND 条件で合成したければ単純に掛け算すれば良い」という発想は、ピクセルの明るさを 0~255 の範囲で考えるレタッチソフトに慣れてしまっていると、すぐには浮かびにくいかもしれませんね。その点、PI のようにピクセルの明るさを 0~1 の範囲で考えているとすんなり発想できます。
(1)で作ったスターマスクと(3)で作ったカラーマスクを PM を使って掛け合わせると、次のような画像ができます。

図11-13. ハロマスク
これが、星の中でハロとして異常な色となっていた部分だけを抜き出したマスク画像です。これをここではハロマスクと呼ぶことにしましょう。明るさは適宜調整してください。
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11-4. Morphology(モルフォロジー)
図11-13 のハロマスクを見ると、星のハロの部分だけがドーナツ状に抽出されていることがわかりますね。このように星ハロだけを抜き出したマスクができたら、これを R画像に適用し、肥大化して星ハロとなってしまった部分だけを消すわけです。
それには MorphologicalTransformation (MT) を使います。

図11-14. MorphologicalTransformation (MT)
MT は、その名の通り Morphology(モルフォロジー)という操作によって処理を行います。モルフォロジーには、主に Dilation(膨張) と Erosion(収縮) という2つの操作があります。膨張(収縮)は、「対象ピクセルの周辺のピクセルの中で最大値(最小値)をとるピクセルの値を対象ピクセルの値として置き換える」という操作です。

図11-15. モルフォロジーの原理
例えば 図11-15 を見てください。9個のピクセルの真ん中のピクセルの値をモルフォロジーによって変換するとします。この周囲(この場合は3×3)のピクセルの最大値は "0.5" ですので、Dilation では "0.5" に置き換えます。一方、最小値は "0.1" ですので、Erosion では "0.1" に置き換えます。これがモルフォロジーです。
普段、レタッチソフトの使用に慣れている人なら、聞いたことがある処理だと思います。そうです。多くのレタッチソフトに「明るさの最大値」「明るさの最小値」といった処理があると思いますが、あれです。
なぜこれが膨張や収縮と言われるのかというと、図11-16 を見てください。周辺ピクセルの最大値で置き換えていけば、点は大きくなり、線は太くなります。逆に、周辺ピクセルの最小値で置き換えていけば、点はより小さくなり(あるいは消滅し)、線は細くなります。この原理を利用して、星を大きくしたり小さくしたりすることができるわけです。

図11-16. モルフォロジーの効果
ちなみに、MT では、その「周辺ピクセル」の範囲を明に指定することもでき、それによって、星の大きさを変えるだけでなく、形を変えることもできます。この辺りのテクニックは Image Processing Tips にも書いてありますので、興味のある方はご覧ください。

図11-17. PixInsightでの画像処理(その6)- MorphologicalTranstormation (MT)
(上図をクリックするとページを開きます。)
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11-5. 星ハロ除去
いよいよハロを除去します。R画像にハロマスク(図11-13)をかけて MT で Elosion(収縮)を実行します。

図11-18. R画像にハロマスクをかけて Erosion(中央2:1拡大)
随分と星が小さくなりましたね。どれだけ収縮させれば良いかは画像によっても違いますので、適宜 Amount で調節してください。こうして星像が小さくなった R画像を、G画像および B画像と合成します。(3色の合成には、9-2節でも登場した ChannelCombination プロセスを使います。)

図11-19. RGB合成(中央2:1拡大)
あれだけ盛大に出ていた星ハロが一気に目立たなくなりましたね。目立たなくなったばかりか、星像が小さくなり、しかもマゼンタだった星が青っぽくなりました。前にも説明した通り、マゼンタだった星は本来は青っぽい星だろうと考えられるので、本来の色に近づいたとも言えます。
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11-6. もうひと声
うるさく目立っていた星ハロが除去できて、これでも別に悪くないと思うのですが、この画像の場合にはちょっと気になる点が2点ほどありますので、ついでにそれらも修正しておきたいと思います。
(1) 青い星
マゼンタだった星が本来の青い色に近づいたとは言っても、正直なところ青というより紫ですよね。こんな色の星も存在しないだろうと考えられるので、これに手を入れます。
紫もマゼンタも主に R と B を混ぜることでできますから、言ってみれば同族の色です。こうしたマゼンタ系の色を簡単に除去する方法があります。そのためにちょっとだけ発想を転換しましょう。
先ほども言いましたが、マゼンタは R + B です。ということは、RGB色空間においてその反対の色は G ということになりますね。このような反対の色のことを「補色」と言うこともあります。この補色の関係を利用しましょう。
まず、図11-19 の星ハロ除去後の画像を invert します。

図11-20. invertした画像
この画像で緑色っぽく見える部分が、元の画像ではマゼンタぽかったところです。この中で星にだけ処理を行いたいので、これに再びスターマスクをかけます。ただ、ここで使うスターマスクは、星ハロ除去後の画像を元に作り直した方が良いでしょう。(ハロを除去した分、最初の画像より星像が小さくなっているため。)
そして、SCNR プロセスを起動します。

図11-21. SCNR
元々これは緑のノイズを減らすために開発されたツールなのですが、ここでこれを利用します。 "Color to remove" で Green を選択し、先ほどスターマスクをかけた invert画像(図11-20)に実行します。このとき、Amount を適宜調整してください。少し小さめに設定した方が良いことが多いと思います。ちょっと分かりにくいかもしれませんが、実行すると、緑色だった星が赤茶色っぽく変わるはずです。

図11-22. SCNR実行(中央2:1拡大)
そうしたら、スターマスクを外して再び invert します。すると、紫だった星の色が青っぽく変わります。

図11-23. 紫だった星の色が青に(中央2:1拡大)
HαやO-III等、特定の波長域だけを狙ったナローバンド撮影をし、それらを R/G/B に割り当てて疑似色合成する所謂「ハッブルパレット」で画像処理すると、星の色がマゼンタになることがあるようで、それを除去するためにこうした技法を使う人がいるようです。
ちょっとした春風亭コワザですね。(はい?)
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(2) 緑色の星?
ハロを除去した画像をよ~く見ると、ところどころに緑色の星が小さく写っています。第9.5回で説明した通り、本来、緑色の星は存在しないはずです。これは何でしょうか。
実はこれらの星は、元々は黄色かオレンジ色の星だったと考えられます。星ハロ除去前の R 画像に写っていた星をもう一度良く見てください。リング状に写っている星が沢山見受けられますよね。

図11-24. R画像には星がリング状に写っていた(中央2:1拡大)
これは所謂「リングボケ」ですね。こういうボケ方をする光学系にはときどきお目にかかりますが、R だけこれほどピントを外しているということは、やはりもう少し R 側にピントをずらした方が良かったかもしれません。
いずれにしても、点状の光がリング状にボケると、その穴の部分は光が弱くなります。つまり、この部分は R が薄くなっているわけです。黄色やオレンジ色の星の場合、B(青)の光はほとんど含まれておらず、R(赤)と G(緑)の光が多く含まれます。このうち R がリングボケによって薄まった結果、G だけが目立つようになったというわけです。ということは、この緑色の星の部分に R を足してやれば、元の色に近づくはずですよね。
ただ、こんな症状に悩まされている人はあまり多くないと思われるので、ここでは手順をざっくり説明するだけにしたいと思います。
① |
リングボケの穴を埋める |
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モルフォロジーを知っている人ならピンとくるでしょうが、モルフォロジーの closing を使うとリングボケの穴を埋めることができます。ただし、MT ではなんと closing と opening の表記が逆になっているので注意が必要です。「誰かつっこまないのかよ」といつも思うのですが、PI ユーザはスルースキルが高いようです(笑)。
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② |
リングボケの穴だけを抽出したマスクを作る |
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穴が埋まった画像から元のリングボケの画像を引けば、穴だけを抽出したマスクを作ることができます。
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③ |
緑色になってしまった星だけのマスクを作る |
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②のマスクと 11-3節の技法を使って、リングボケの穴であり且つ緑色になっている部分だけを抜き出したマスクを作ります。
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④ |
R を足す |
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③のマスクを 図11-23 の画像にかけて、CurvesTransformation (CT) で R だけを増幅します。
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この手順の処理で緑色の微光星を黄色やオレンジ色に戻すことができます。

図11-25. 緑の微光星を元の色に復元(中央2:1拡大)
これで、ひとまず星ハロを除去することができました。今回の一連の星ハロ除去処理について、除去前と除去後の画像を比較することでその効果を見てみましょう。

図11-26. 星ハロ除去の効果(全体を1:4縮小)

図11-27. 星ハロ除去の効果(中央等倍)
まあ、こんなところでしょうか。除去前の星ハロが盛大だった分、効果が分かりやすいですね。
今回の内容は少々ハードだったかもしれませんが、いかがでしたでしょうか。この画像の場合はあまりに酷くて無視するわけにはいかなかったので説明することにしましたが、優秀な光学系を使っていれば大抵不要な処理だと思います。日頃こうした症状に苦しんでいる方に何かしらの参考にしていただければ幸いです。
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<つづく>