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2018年5月

2018年5月 7日 (月)

PixInsightで画像処理を始めよう ~ 第3回 花有清香月有陰(1)

【目次】

3-1. 画像復元
3-2. FFTRegistrationで重ね合わせ
3-3. Crop(クロップ)
3-4. 明るさを調整しよう


3-1. きれいなお月さんは、好きですか。

星雲や星団といった一般的な天体写真は大変暗いので、長時間にわたる露光が必要となります。したがって、それなりの機材構成が必要となる等、初心者には少々ハードルが高いものです。それに比べて、月は明るく、ある程度の面積があるので、 比較的初心者でも対象としやすい天体と言えるでしょう。 それに、気候がだんだん暖かくなってくると、夜に月を撮影するのも苦ではなくなってきます。かの蘇軾でなくとも、花有清香月有陰(花に清香有り、月に陰有り)と詠みたくなる季節です。

月は私たちにとって最も身近な天体でもありますし、皆さんの中にも、月の写真なら撮ったことがあるという人は少なくないと思います。ということで、この連載では、まず月の写真を画像処理してみましょう。

上記のとおり、月は明るいので、数十分の1秒から数百分の1秒程度の露出で撮れます。最初に撮って出しのJPEG画像を見てください。

03_01_moon_s
図3-1 月の撮って出し画像(上:全体、下:一部拡大)

撮影日:2018/3/25
撮影地:横浜市
レンズ:BORG71FL、Tele Vue 3x Barlow(合成焦点距離1200mm)
架台:SWAT-200
カメラ:SONY α6000
ISO感度:400
露出:1/100秒

写真上が全体写真で、下がその一部(緑枠部分)を等倍に拡大したものです。(いずれも少し明るくしてあります。)よく写っていると思いますが、拡大部分をよく見ると、ザラザラしているのがわかりますね。これはノイズです。
ノイズにもいろいろと種類がありますが、このザラザラの主たる原因は、一般的に「ランダムノイズ」といわれるノイズによるもので、ISO感度や露出時間等のカメラの設定が同じでも、撮るたびに出方が違います。

こうしたランダムノイズを減らす方法としてよく用いられているのが、何枚も撮影してそれを重ね、画素ごとに平均をとるという方法です。次の図を見てください。

03_02_ave_comb
図3-2. 加算平均概念図

これは、画像のノイズの量を棒グラフであらわしたものです。上のA~Dの4つの画像のノイズはすべて出方がバラバラで、そのばらつきも大きいです。しかし、この4つを重ね合わせて平均をとると、下のグラフのように、ばらつきが小さくなります。ここでは4枚でしたが、10枚、20枚と重ね合わせる枚数が多くなればなるほど、原理的にはばらつきが小さく(ノイズが少なく)なります。

この原理を利用して、ノイズを減らしましょう。そのために、まずは写真をたくさん撮っておいてください。

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3-2. FFTRegistrationで重ね合わせ

撮影が終わったら、いよいよ PixInsight で画像処理です。
ところで、一般的に、デジタルカメラの出力形式には JPEG と RAW の2種類があるかと思います。天体写真の画像処理には、RAWデータの方が都合が良いことが多く、月でもそれは同じです。ただ、「初めてだったから JPEGで撮っちゃった(てへっ)」という人も多いでしょうし、JPEGでも処理できないわけではないので、今回は JPEG画像を使うこととします。

さあ、まずはノイズを減らすために、沢山の月の写真を重ね合わせることから始めましょう。しかし、撮った写真を何枚か見比べてみると分かると思いますが、下図のように月が写っている位置が微妙にズレていることがあります。

03_03_slide
図3-3. 月が写っている位置がわずかにズレている

重ね合わせるときには、月がしっかりと重なるように位置を合わせてから重ね合わせなければ意味がありません。月の位置を合わせ、それらを重ね合わせるのによく使われるのが、FFTRegistration というスクリプトです。FFTとは、Fast Fourier Transform(高速フーリエ変換)の略です。大学の工学系の学部で学ばれた方にはお馴染みの言葉だと思いますが、詳しいことはわからなくてもとりあえず処理はできますから、身構えなくても大丈夫ですよ。

月の位置合わせは StarAlignment という別のプロセスを使ってもできるのですが、少々面倒くさいので、ここでは FFTRegistration を使うこととします。メニューバーから、SCRIPT > Utilities > FFTRegistration と辿って起動してください。

03_04_select_fftr_s
図3-4. FFTRegistrationを起動

すると、次のような FFTRegistration の画面が立ち上がります。

03_05_fftr
図3-5. FFTRegistration

Add ボタンを押して、Target Images に月を撮った画像を入力してください。

03_06_fftr_select_images
図3-6. FFTRegistrationへのデータ入力

ただ、位置合わせのためには、どれかの画像を基準としなければなりません。その基準画像を1つ選んで Reference Image に入力してください。右側の Select ボタンから選択できます。基準画像は、なるべくブレが少なくて綺麗に撮れているものを選ぶと良いでしょう。

それから、写真によって月が写っている位置が大きくズレてしまっている場合には、画面下の Registration Options から、Enable large translations を有効にした方が良いでしょう。また、写真によって月が回転してしまっている場合には、Correct for rotation も有効にした方が良いかもしれません。もっとも、SWATのような赤道儀にカメラを載せて、月を追尾しながら撮影していれば、普通は上の2つのオプションは不要かと思います。これらのオプションを付けると、処理に時間がかかるようになるので、要注意です。OKボタンを押して実行すると、しばらくして次のような画像が画面上に出力されます。

03_07_fftred_s
図3-7. FFTRegistration後(上:全体、下:一部拡大)

FTTRegistrationで重ね合わせる前の画像と比較すると、ノイズが減って滑らかになっていることがわかると思います。2倍拡大した次の画像の方がわかりやすいですね。

03_08_fftr_beforeafter
図3-8. FFTRegistration前後の画像比較(2倍拡大)

なお、これと同様の機能を持つプログラムとして、Autostakkert! (AS)というフリーソフトがあります。AS はフリーであるにもかかわらず非常に優れたプログラムでして、品質の悪い画像を捨てて、品質の良いものだけで重ね合わせを行うことができる等、使い勝手が良く、なにより処理速度が速いので、この処理だけであれば AS を使う人が多いと思います。

私もこの処理だけであれば AS を使う派ですが、FFTRegistration も決して悪くはありませんし、複数のプログラムを使ってその間でデータをやり取りするというのは、不便な面もあります。そのときの都合や好みに応じて、使うプログラムを変えて処理するというのも良いでしょう。

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3-3. Crop(クロップ)

ところで、この月の画像は背景宇宙の黒い部分が少々広いです。処理したいのはあくまで月であって、背景宇宙は余分なので、これから色んな処理を施す前に、この余分な部分をある程度切り取って(クロップして)おきましょう。

メニューバーから、PROCESS > All Processes > DynamicCrop と辿って、DynamicCropを起動します。

そして月の画像上にマウスポインタを移動させると、マウスポインタが十字になります。その状態で、切り取りたい範囲をマウス操作で選択します。

03_09_dynamiccrop_select
図3-9. DynaimcCropで任意の範囲を選択
 
選択した範囲は、マウス操作で広げたり狭くしたり、あるいは回転させたりすることも可能なので、適宜調整します。

03_10_dynamiccrop_rotate
図3-10. 範囲を回転
 
範囲が決まったら、DynamicCrop の一番下の左から二番目のチェックマークをクリックすると、選択した範囲のとおりにクロップされます。

03_11_dynamiccrop_apply
図3-11. 実行してクロップ
 
クロップ後、ウィンドウ左下の Fit View ボタンを押すと、画像の表示サイズに合わせて(1/4サイズで表示しているのなら 1/4サイズに合わせて)ウィンドウサイズが変わります。

03_12_fitview
図3-12. Fit View でウィンドウサイズを調整
 
Fit View はよく使うので、覚えておくと便利です。

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3-4. 明るさを調整しよう

ところで、写真の全体的な明るさは、その写真によって異なります。これから様々な処理を施すことになりますが、その度に明るさが変わることもあります。明るすぎたり暗すぎたりすると、処理の効果がわかりづらくなります。ですから、ここで PI で最も基本的な明るさの調整方法を学習しておきましょう。

メニューバーから PROCESS > All Processes > ScreenTransferFunction と辿って、ScreenTransferFunction(STF)を起動します。

03_12_stf
図3-12. ScreenTransferFunction
 
まず、明るさを調整したい画像をアクティブにして、STFの右下のチェックマークをオンにします。さらに、左上の鎖のマークをオンにします。その状態で、R/G/Bのバーの真ん中にある三角マークを左右に動かしてみてください。鎖マークをオンにしていると、R/G/B/の三角が連動して動きます。

0313_stf
図3-13. STFでの明るさ調整
 
左に動かすと明るくなり、右に動かすと暗くなります。これで、ちょうど良い明るさにしてください。しかし、ここで注意が必要です。STFで明るさを調整しても、それは画面上で(見かけ上)明るさが変わっているだけで、画像の情報自体は変えていません。ですから、暗い画像を STF で明るくしても、それだけの状態で画像ファイルに保存すると、暗い画像のまま保存されてしまいます。いわば、処理を実行する前の Real-Time Preview みたいなものです。

STFで調整した明るさを実際に反映するには、HistogramTransformation(HT)というプロセスを使って、次のような手順で行ないます。

0314_ht
図3-14. HistogramTransformation
 
① STF左下の三角マークを HT の一番下の少し色が違う枠にドラッグ&ドロップ
② HT左下の三角マークを画像にドラッグ&ドロップ
③ STF右下の Reset をクリックして、STFの設定をリセットする

0315_applystf
図3-15. STFで調整した明るさをHTで反映する手順
 
こんな風に明るさを調整するのはなんだか面倒くさいと思うかもしれませんが、慣れるとなんでもなくなってきますし、STF のようなプロセスが必要な理由は後々わかることになりますので、今は我慢してください。なお、STF で調整した結果を反映するのは、画像を保存するときに最後に1回だけすれば良くて、それまでは STF で見かけ上の明るさを調整するだけで構いません。今後、処理を続ける途中で明るさを調整したくなったら、その都度 STF で見かけ上の調整をしてください。
 
ここまででひとまず準備完了といったところです。次回(第4回)からいよいよ画像処理っぽくなってきますよ。乞う、ご期待!

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つづく

PixInsightで画像処理を始めよう ~ 第3.5回 【補足】 Histogram と HistogramTransformation

【目次】

3.5-1. ヒストグラム
3.5-2. HistogramTransformation(HT)での変換


3.5-1. ヒストグラム

画像処理をする上で、まず知っておかなければならないものの一つとして、histogram(ヒストグラム)があります。ヒストグラムは「度数分布図」と和訳されることがありますが、その名の通り、その画像の中にどの明るさのピクセルがどのくらいあるか、その分布をグラフにしたものです。

35_01_histogramex
図3.5-1. HistogramTransformationで見たヒストグラムの例
 
上図がそのヒストグラムの例で、R/G/Bの3つの色ごとにグラフとして表示されています。このグラフの横軸がピクセルの明るさを表し、0 から 1 までの値で表現されています。一方、縦軸はその明るさのピクセルの数を表しています。

ヒストグラムは一つの統計情報なので、ヒストグラムを見ても、具体的に何が写っている画像なのかはわかりませんが、これを見れば、どの明るさのピクセルが多い画像なのか(全体としてどのくらいの明るさの画像なのか)、あるいはコントラストが高いのか低いのか等、その画像に対する様々な情報が得られます。

この情報が画像処理においては非常に重要なので、画像を見たら、まずヒストグラムを調べる癖をつけておくと良いでしょう。

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3.5-2. HistogramTransformation(HT)での変換

HistogramTransformation の Transformation とは「変換」のことです。HT は、ヒストグラムを参照しながら、画像の各ピクセルの明るさを変換して、画像全体の明るさやコントラストを変えるためのツールです。下図を見てください。

35_02_smh
図3.5-2. Shadows/Midtones/Highlights
 
まず、ヒストグラムを左下から右上に斜めに走っている一本の直線が目に付くと思います。さらによく見ると、ヒストグラムの下に白い三角マークが3つありますよね。左から、シャドウ、ミッドトーン、ハイライトと呼びます。これらの位置を適当に変えてみましょう。

35_03_transcurve
図3.5-3. 変換曲線
 
すると、上図のように、それまで斜めに走っていた直線が曲線になります。この曲線が変換曲線です。変換曲線を見るときには、横軸が変換前のピクセルの明るさ、縦軸が変換後のピクセルの明るさを表していると考えます。

例えば図3.5-3の A の明るさのピクセルであれば、A' の明るさに変換される、ということを意味しているわけです。

シャドウポイントよりも左側にある B の明るさだったピクセルは、変換後に 0 の明るさ(真っ暗)になります。反対に、ハイライトポイントよりも右側にある C の明るさだったピクセルは、変換後に 1 の明るさになることがわかりますね。

シャドウポイントやハイライトポイントを動かして変換することをクリッピング(clipping)とも言います。シャドウクリッピングであれば、それ以下の明るさのピクセルは、全て 0(真っ暗)になりますし、ハイライトクリッピングであれば、それ以上の明るさのピクセルは、全て 1(飽和)になってしまいます。

クリッピングは、ピクセルが持っていた情報を捨てることを意味します。一度捨てられた情報はもう戻ってこないので、慎重にやる必要があります。天体写真の画像処理においては、とくにハイライトクリッピングはほとんどしません。HT を使った明るさ調整は、ミッドトーンを左右に動かすことを基本とし、それに加えて、クリップされるピクセル数があまり多くならない程度にシャドウクリッピングをして行うもの、と覚えておいてください。

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<つづく>

2018年5月21日 (月)

PixInsightで画像処理を始めよう ~ 第4回 花有清香月有陰(2)

【目次】

4-1. 画像復元
 (1) Deconvolution
 (2) MultiscaleLinearTransform


4-1. 画像復元

第3回では、FFTRegistration によって沢山の画像を重ね合わせることでノイズを減らし、滑らかな画像を得ることができました。
しかし、図3-7 や図3-8 をよく見ると、確かに滑らかにはなったものの、なんだか少しぼやけていますよね。これは、第1回でも触れたように、主に地球の大気の影響です。地上から分厚い大気の層を通して撮影する以上、どんなにピントを合わせても多少ぼやけて写ってしまうものなのです。でも、元々ははっきりくっきりした像だったはずです。それが、地球の大気によってぼけた像になってしまったのです。地球の大気だけでなく、レンズ等の光学系の収差によっても、ぼやけたり歪んだりすることがあります。
そのように光学系や大気等、様々な影響によって劣化した画像を修正し、元のはっきりくっきりした画像を再現することを「画像復元」と総称したりします。今度は、この少しぼやけた月の写真を画像復元して、はっきりくっきりした画像にしましょう。

(1) Deconvolution

画像復元にはいろいろな方法がありますが、今回ご紹介するのは、Deconvolution というプロセスです。この Deconvolution は、PI を代表する「優れものプロセス」の一つでして、一言でいえば Convolution の逆です。「じゃあ、Convolutionって何だ?」ということになりますが、これを単純に翻訳すると「畳み込み積分」とか「重畳積分」という日本語訳が出てくると思います。どっちにしても頭の上に「?」マークが2万個くらい出てきそうですね。(笑)
Deconvolution の考え方については、第4.5回の補足で少しだけ詳しく解説していますので、興味のある方はそちらを見ていただくとして、ここではそんな数学的な難しいことは置いといて、とりあえず使ってみることにしましょう。

メニューバーから、PROCESS > Deconvolution > Deconvolution と辿って起動してください。

04_01_select_deconvolution
図4-1. Deconvolutionを起動

もちろん、PROCESS > All Processes > Deconvolution でも構いません。
すると、下図のような画面が立ち上がります。

04_02_deconvolution
図4-2. Deconvolution

さっそく Deconvolution を実行してみたいところですが、Deconvolution をいきなり画像全体に適用すると処理に少々時間がかかるので、その前に一部分だけを切り取って、その中だけで、いわば「試し処理」をしてみることにします。

ツールバーの "New Preview Mode" をオンにして、どこでも良いのであまり大きくならない範囲を選択してください。

04_03_select_preview
図4-3. Preview領域を選択

すると、画像のウィンドウの左側の枠に "Preview01" というタブが現れます。そして、それをクリックすると、先ほど選択した preview 領域だけが表示されるようになります。

04_04_preview01
図4-4. Preview領域だけを表示

この領域に対して、Deconvolution の試し処理を施してみます。
Algorithmオプションは、まあどれでも良いんですが、デフォルト通り "Regularized Richardson-Lucy" を選択してみましょう。Richardson-Lucy法というのは、光学設計に詳しい方なら馴染み深いのではないでしょうか。他のオプションも、まずはデフォルトのままで実行してみます。
プロセスの実行は簡単で、プロセス画面の左下にある四角マークを押すか、もしくは下図のように三角マークを処理対象の画像にドラッグ&ドロップするだけです。

04_05_deco_dd
図4-5. Deconvolution実行

これだけでも画像が少しくっきりとしてくると思います。

ここで、Preview画面に対しては、ツールバーの下図の矢印マークを押すことでプロセス実行の Undo/Redo を繰り返し表示することができます。これで、プロセス実行前後の画像の変化を見て、その効果を確認することができるわけです。

04_06_undoredo
図4-6. Undo/Redo Preview

デフォルトパラメータでどの程度の効果があるかがわかったら、次に、StdDevShape の値を少し変更して再度実行してみてください。この2つのパラメータを変えて何度か実行して Undo/Redo を繰り返していると、そのうち2つのパラメータのスイートスポットがわかってくると思います。どこがスイートスポットなのかは、画像によっても違いますし、人それぞれの好みもあるかと思いますが、私は下の画像くらいが良いのではないかなと思います。

04_07_deco_sweetspot
図4-7. Deconvolution実行例

ぼやけていた画像がだいぶくっきりしてきましたね。2つのパラメータのスイートスポットがわかったら、Iteration を 30~50くらいに上げて再度確認し、それで良ければ今度は画像全体のタブに切り替えて、画像全体に対して実行してください。画像の画素数が大きくなればなるほど、また Iterationの回数が多くなればなるほど、処理には時間がかかるようになるので、そのおつもりで。

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図4-8. パラメータが決まったら画像全体に実行

これで、Deconvolution 完了です。

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(2) MultiscaleLinearTransform
 
Deconvolutionで画像復元したら、今度は画像の輪郭を強調しましょう。輪郭を強調すると、画像がシャープに見えるようになります。

使うプロセスは、MultiscaleLinearTransform(MLT) です。UnsharpMask というプロセスでも似たような効果が得られるのですが、今回は MLT を使ってみます。

04_09_mlt
図4-9. MultiscaleLinearTransform

これも Deconvolution 同様、なんだかパラメータやオプションがいっぱいあって、見ただけで「もうわけわからん!」と言いたくなりますが、この MLT は、画像をシャープにしたりぼかしたり、あるいはノイズを減らしたりと、色々な用途で万能的に使えるプロセスです。おまけに MLT には Real-Time Preview 機能がついていて、いちいち実行しなくてもリアルタイムで効果を確認することができます。
まず、図4-4と同様に月のPreview領域だけを表示するようにし、MLTの左下の丸印のボタンを押して、Real-Time Preview 画面を表示します。
そして、2もしくは3くらいの比較的小さな Layer(レイヤー)で Bias のスライダーを右に動かします。

04_10_mlt_beforeafter
図4-10. Real-Time Preview上での MultiscaleLinearTransform実行例

Bias をプラス方向に動かせば、そのレイヤーが強調されます。
このレイヤーについても補足でもう少し詳しく解説しますが、この処理で月のクレーター等の輪郭が強調されます。人間の目は、物の輪郭が強調されるとシャープになったように見えるから不思議ですね。それはともかく、Real-Time Preview を使えば、パラメータ値を変えるとその都度すぐに効果が確認できるので便利です。Real-Time Preview で Bias値のスイートスポットがわかったら、Deconvolutionのときと同様、月の画像全体に MLT を実行します。なお、さきほども言った通り UnsharpMask でも似たような効果が得られるので、気になる方は UnsharpMask も試してみて、気に入った方のプロセスを選択してください。

では、ここまでの画像処理によって、撮って出し画像がどのように変わってきたのか、繋げて見てみることにしましょう。

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図4-11. MLTまでの処理結果

どうですか?だいぶ印象が変わって見えるようになったと思います。

今回は、Deconvolution にしろ MLT にしろ、必要最小限のパラメータしか変更していませんが、それでもかなりの効果が見られます。どちらのプロセスもパラメータが沢山ありますので、色々とパラメータを変えて試してみて、自分の好みに合ったパラメータセットを見つけてみて下さい。

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つづく

PixInsightで画像処理を始めよう ~ 第4.5回 【補足】 Layerとは? Deconvolutionとは?

【目次】

4.5-1. レイヤー
4.5-2. Deconvolution


4.5-1. レイヤー

第4回の Deconvolution や MultiscaleLinearTransform の処理の説明で Layer(レイヤー)という言葉が出てきました。この Layer とは、正確に言えば Wavelet Layer(ウェーブレット・レイヤー)なんですが、そんなこと言っても余計にわかりませんよね。
ちゃんと理解するには、Wavelet解析を知らないといけないのですが、とりあえずそんなもの知らなくても、簡易的に画像を各レイヤーに分解することはできます。

メニューバーから SCRIPT > Image Analysis > ExtractWaveletLayers と辿って ExtractWaveletLayers スクリプトを起動します。

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図4.5-1. ExtractWaveletLayers

Target image に 図4-4 の Preview01 を選んでこのまま OK ボタンを押すと、次のように計6枚の画像が出力されます。

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図4.5-2. 分解されたレイヤー画像

ここで、Layer00 という画像がウェーブレット・レイヤーの Layer1 に相当します。以下、Layer01 が Layer2 に、Layer02 が Layer3 に・・・と、それぞれ相当します。
これらのうち、小さなレイヤーの画像を見ると、微細な構造は見えていますが、大きなスケールの構造は消えているのがわかると思います。逆に大きなレイヤーの画像を見ると、微細な構造は見えなくなって、大きなスケールの構造が写るようになっています。一言で言うと、各レイヤーには、月の表面の構造の輪郭が色んなスケールで写っていると言い換えても良いでしょう。

前回の 4-1.(2) MultiscaleLinearTransform の処理では、 MLT の Bias の値をプラス方向に少し動かしましたが、これは、そのレイヤーの比重を大きくして、そのレイヤーを強調するという処理です。図4-10 の例の場合、Layer2 と Layer3 の Bias を大きくしました。このレイヤーには、クレーター等の輪郭がとくにはっきりと写っていますので、それが強調されたというわけです。ちなみに、Layer1 にはより微細な構造が写っているので、これも強調した方が良いんじゃないかと思うかもしれませんが、一般的には、このレイヤーにはピクセル単位のノイズも写っていますので、Layer1 の Biasを大きくすると、そうしたノイズも強調されてしまうということに注意が必要です。
図4-10 の月の画像の場合には、実はそんなにノイズは含まれていなかったので Layer1 を強調しても良かったのですが、通常は、小さなレイヤーを扱う時には常にノイズを意識しなければならないということを覚えておきましょう。

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4.5-2. Deconvolution

第4回でも紹介した通り、Deconvolution は、PI を代表する優れものプロセスの1つです。このプロセスの原理と言いますか、基本的な考え方について、ここで極簡単に解説しましょう。1つだけ数式が出てきますので、数式を見ると隣の人の首を絞めたくなるという人は読み飛ばしてください。(笑)

さて、これまで何回か言っている通り、地球上で分厚い大気や何らかの光学系を通して見る像はぼやけています。しかし、本来はシャープな像だったはずです。

図4.5-3 を見てください。

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図4.5-3. Deconvolution の考え方

理想的な点光源像が大気や光学系を通した結果、h(x) で表されるような広がりを持つぼやけた像になるとします。すると、本来 f(x) で表されるはずだった天体の像は、式(1) のような g(x') として観測されることとなります。

この式(1) が convolution で、日本語では畳み込み積分とか重畳積分とか言われるものです。そして、h(x) のことを point spread function(PSF)、日本語では点像分布関数等と言います。
ここで、知りたいのは天体の本来の像である f(x) で、これがよくわからないわけです。しかし一方、g(x') は観測された像なのでよくわかっています。なら、あとは h(x) がわかれば、あるいはこれを何らかの形に仮定すれば、f(x) もわかるでしょう、というのが Deconvolution の発想です。発想自体はそんなに難しくはありませんね。

第4回で調整した Deconvolution のパラメータ StdDev は、この PSF の標準偏差です。例えばこれが 0 だとすると、PSF はδ関数ということになり、本来の理想的な点光源像のままで全くぼやけていないという意味になりますから、Deconvolution をしても変わらないということになります。PI の Deconvolution では、StdDev に 0 は指定できませんが、これを小さくすると、Deconvolution を実行しても元の画像のままに近くなる(ほとんど変わらなくなる)、というのはすぐに理解できると思います。
もう1つのパラメータ Shape は PSF の尖度のことで、デフォルトの 2 が正規分布であることを意味しているようです。尖度というと、0 を正規分布とするのが普通だと思いますが、ここは注意が必要です。

ともかく、パラメータを調整するときには、まず StdDev から調整し、次に Shape のスライダーを動かすという手順で、両パラメータのスイートスポットを追い込むと良いでしょう。なお、画像に星が写っている場合には、その星像を元に PSF を推定する DynamicPSF というプロセスもありますが、ここでは紹介だけに止めておきます。

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<つづく>

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