PixInsightで画像処理を始めよう ~ 第4.5回 【補足】 Layerとは? Deconvolutionとは?
4.5-1. レイヤー
4.5-2. Deconvolution
4.5-1. レイヤー
第4回の Deconvolution や MultiscaleLinearTransform の処理の説明で Layer(レイヤー)という言葉が出てきました。この Layer とは、正確に言えば Wavelet Layer(ウェーブレット・レイヤー)なんですが、そんなこと言っても余計にわかりませんよね。
ちゃんと理解するには、Wavelet解析を知らないといけないのですが、とりあえずそんなもの知らなくても、簡易的に画像を各レイヤーに分解することはできます。
メニューバーから SCRIPT > Image Analysis > ExtractWaveletLayers と辿って ExtractWaveletLayers スクリプトを起動します。
図4.5-1. ExtractWaveletLayers
Target image に 図4-4 の Preview01 を選んでこのまま OK ボタンを押すと、次のように計6枚の画像が出力されます。
ここで、Layer00 という画像がウェーブレット・レイヤーの Layer1 に相当します。以下、Layer01 が Layer2 に、Layer02 が Layer3 に・・・と、それぞれ相当します。
これらのうち、小さなレイヤーの画像を見ると、微細な構造は見えていますが、大きなスケールの構造は消えているのがわかると思います。逆に大きなレイヤーの画像を見ると、微細な構造は見えなくなって、大きなスケールの構造が写るようになっています。一言で言うと、各レイヤーには、月の表面の構造の輪郭が色んなスケールで写っていると言い換えても良いでしょう。
前回の 4-1.(2) MultiscaleLinearTransform の処理では、 MLT の Bias の値をプラス方向に少し動かしましたが、これは、そのレイヤーの比重を大きくして、そのレイヤーを強調するという処理です。図4-10 の例の場合、Layer2 と Layer3 の Bias を大きくしました。このレイヤーには、クレーター等の輪郭がとくにはっきりと写っていますので、それが強調されたというわけです。ちなみに、Layer1 にはより微細な構造が写っているので、これも強調した方が良いんじゃないかと思うかもしれませんが、一般的には、このレイヤーにはピクセル単位のノイズも写っていますので、Layer1 の Biasを大きくすると、そうしたノイズも強調されてしまうということに注意が必要です。
図4-10 の月の画像の場合には、実はそんなにノイズは含まれていなかったので Layer1 を強調しても良かったのですが、通常は、小さなレイヤーを扱う時には常にノイズを意識しなければならないということを覚えておきましょう。
4.5-2. Deconvolution
第4回でも紹介した通り、Deconvolution は、PI を代表する優れものプロセスの1つです。このプロセスの原理と言いますか、基本的な考え方について、ここで極簡単に解説しましょう。1つだけ数式が出てきますので、数式を見ると隣の人の首を絞めたくなるという人は読み飛ばしてください。(笑)
さて、これまで何回か言っている通り、地球上で分厚い大気や何らかの光学系を通して見る像はぼやけています。しかし、本来はシャープな像だったはずです。
図4.5-3 を見てください。
図4.5-3. Deconvolution の考え方
理想的な点光源像が大気や光学系を通した結果、h(x) で表されるような広がりを持つぼやけた像になるとします。すると、本来 f(x) で表されるはずだった天体の像は、式(1) のような g(x') として観測されることとなります。
この式(1) が convolution で、日本語では畳み込み積分とか重畳積分とか言われるものです。そして、h(x) のことを point spread function(PSF)、日本語では点像分布関数等と言います。
ここで、知りたいのは天体の本来の像である f(x) で、これがよくわからないわけです。しかし一方、g(x') は観測された像なのでよくわかっています。なら、あとは h(x) がわかれば、あるいはこれを何らかの形に仮定すれば、f(x) もわかるでしょう、というのが Deconvolution の発想です。発想自体はそんなに難しくはありませんね。
第4回で調整した Deconvolution のパラメータ StdDev は、この PSF の標準偏差です。例えばこれが 0 だとすると、PSF はδ関数ということになり、本来の理想的な点光源像のままで全くぼやけていないという意味になりますから、Deconvolution をしても変わらないということになります。PI の Deconvolution では、StdDev に 0 は指定できませんが、これを小さくすると、Deconvolution を実行しても元の画像のままに近くなる(ほとんど変わらなくなる)、というのはすぐに理解できると思います。
もう1つのパラメータ Shape は PSF の尖度のことで、デフォルトの 2 が正規分布であることを意味しているようです。尖度というと、0 を正規分布とするのが普通だと思いますが、ここは注意が必要です。
ともかく、パラメータを調整するときには、まず StdDev から調整し、次に Shape のスライダーを動かすという手順で、両パラメータのスイートスポットを追い込むと良いでしょう。なお、画像に星が写っている場合には、その星像を元に PSF を推定する DynamicPSF というプロセスもありますが、ここでは紹介だけに止めておきます。
<つづく>
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