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2018年6月20日 (水)

PixInsightで画像処理を始めよう ~ 第6回 嗚呼、星はいい(1) RAWデータ

【目次】

6-1. RAWデータと撮って出し画像
6-2. 最初にすべき補正処理
6-3. Pre processing (前処理)とは


「星を見ておいでですか、閣下」
「ああ、星はいい」

とは、どこぞの銀河帝国で常勝と称された天才の美青年と、その赤髪の腹心との会話だったかと記憶していますが、やはり星は見ているだけでもいいものです。それを美しい写真に残せたらもっと素敵ですよね。

ということで、第3回から第5回まで計3回にわたって月の写真の画像処理について解説してきましたので、次は星野写真の画像処理について解説しましょう。

月面写真編ではカメラ撮って出しのJPEG画像を使って説明しましたが、今度はRAWデータを使います。いきなり処理を始めても良いのですが、その前に、RAWデータを扱うのであれば知っておいていただきたい予備知識が幾つかありますので、今回はその予備知識について解説します。具体的な処理テクニックの話じゃないのでつまらないかもしれませんが、少しの間辛抱してください。

6-1. RAWデータと撮って出し画像

RAWデータと撮って出し画像に関して、画像処理初心者は(一部経験者でも)様々な誤解を抱いているケースが多いのではないかと思います。そこで、まずはその誤解を解くために、撮って出し画像とは何か、RAWデータは撮って出し画像と何が違うのか、について簡単に解説することとしましょう。

まず、RAWデータは、カメラのイメージセンサの各画素が受けた光の量、言い換えれば輝度の情報しか持っていません。したがって、これを単純に画像化すると、図6-1 のようなモノクロ画像になります。

06_01_rawimage
図6-1. RAW画像例

モノクロ画像であるとともに、非常に暗いことに気づきますね。そうなんです。RAWデータって、実は凄く暗いんです。右下にヒストグラムを表示していますが、山が左の方に寄っていますね。

(注) PixInsight で RAWデータを "Pure Raw" 表示すると、実際にはもっと暗く表示されます。 これは、PI の画像表示が 16bit表示なのに対し、RAWデータが 14bitであることに起因します。 つまり、1/4倍に逆ストレッチされているような形になっているのです。 したがって、RAWデータそのものの明るさを再現するには、PI で開いた直後の RAWデータを4倍に線型ストレッチしないといけません。 図6-1は、4倍に線型ストレッチした後の画像です。これが RAWデータの明るさです。

この画像の一部を拡大すると次のようになっていまして、とりあえず何かが写っていることくらいは分かると思います。

06_02_raw_l
図6-2. RAW画像の拡大図(12倍)

何やら格子状に見えていると思いますが、これは12倍に拡大したものでして、この格子1つ1つが1つのピクセルに相当します。これらの画像を見て何が写っているのかピンと来た人は、たぶん横浜の方でしょう(笑)。

さて、撮って出し画像とは、こうした RAWデータに対して主に以下の処理を施した画像のことです。(本当はノイズ処理等も行われますが、ここでは省きます。)

  1. Debayer(De-mosaic)
  2. 色調整(色調補正)
  3. 明るさ調整

順に見ていきましょう。

(1)  Debayer (De-mosaic)

一般的なデジタルカメラはイメージセンサの前面に 図6-3 のような特殊なカラーフィルターを置き、各画素が R/G/B のいずれかの色のフィルターを通った光だけを受けるようにしてあります。

06_03_bayer_layout
図6-3. カラーフィルターのイメージ図
(あまりじっと見ていると目がチカチカしてきますよ。)

つまり、図6-2 で格子状に見えていた各ピクセルは、それぞれ R/G/B いずれかの色に対応していて、そのフィルターを通った光の輝度情報のみを持っているわけです。こうして撮影されたRAWデータから R/G/B それぞれの画像を生成し、カラー画像化する処理のことを debayer もしくは de-mosaic と言います。詳細はここでは割愛しますが、この辺りのことはインターネット上の様々なサイトで解説されていますので、興味のある方はそちらをご参照ください。図6-1 の RAWデータを debayer した画像が次の 図6-4 です。

06_04_raw_debayer
図6-4. RAWデータ+debayer

(2)  色調整(色調補正)

相変わらず暗いままですが、debayer することでカラー画像にはなりました。しかし、これを見ると、暗いだけではなく、色調(色合い)がおかしいことに気が付きますね。人間が目で見た通りの色合いにはなっていません。そこで次に、debayer で生成された R画像と G画像と B画像の「配合」を調整することによって色合いを調整します。このときに参照されるのが、カメラで撮影するときに設定されていたホワイトバランスです。

ホワイトバランスは、「太陽光」とか「日陰」とか「電球(白熱球)」とかいろいろな値に設定できると思いますが、これらの設定それぞれで3色の画像の配合の仕方が違っています。「太陽光」ならこの配合、「電球」なら別の配合、という具合に。だからホワイトバランスを変えると違う色合いになるわけですね。この配合の仕方はカメラメーカによって予め決められています。図6-4 を「太陽光」のホワイトバランスで色調整するように模擬したものが、次の 図6-5 です。

06_05_raw_debayer_cc
図6-5. RAWデータ+debayer+色調整

(3)  明るさ調整

色合いを調整して、なんとなく自然な色合いになってきました。しかし、これだと依然として暗いままです。そこで、この画像を次のように明るくします。

06_06_raw_debayer_cc_s
図6-6. RAWデータ+debayer+色調整+明るさ調整

これでやっと普通の写真らしくなりましたね。このように、画像を明るくすることを stretch(ストレッチ)と呼ぶことがあります。ヒストグラムを引き延ばすような処理だからそう呼ばれるのでしょう。また、ここまでやってきたような処理をまとめて「現像」と呼びます。フィルム写真の「現像」に倣った呼び方ですね。そして、カメラの画像エンジンでこのように現像された画像が、撮って出し画像というわけです。通常、JPEG形式で保存されることが多いので、「JPEG撮って出し」と言われたりもしますね。

ここで、図6-5 と図6-6 を比較すると、随分と強くストレッチしていることがわかりますね。「わざわざこんなに強くストレッチしなければならないほどに元の画像が暗いのなら、もうちょっと露出時間を長くすれば良いんじゃないの?」と思う人もいるかもしれません。しかし、デジタルカメラが登場するまでは、カメラと言えばフィルムカメラでした。そのフィルムカメラでは、「この明るさの被写体ならこの絞りとこの露出時間でちょうど良いくらいに写った」という経験があったわけで、デジタルカメラでもそれを継承しなければなりません。ところが実際にデジタルカメラでその設定で撮ってみると暗くて仕方がない。だから強くストレッチしている。そういうことなんだと思います。

デジタルカメラで撮影すると、すぐに背面モニタにこの画像が表示されるので、RAWデータもこの撮って出し画像のような色合いと明るさに最初から記録されているのだ、と誤解している人が多いのではないかと思いますが、ここまで見てきたように、実はそうではありません。RAWデータを単純にカラー画像化しただけでは、色調は滅茶苦茶ですし、しかも非常に暗いのです。それをカメラの画像エンジンが瞬時に現像処理して背面モニタに表示しているのです。その撮って出し画像を見て「あ、飽和しちゃった」と思っても、RAWデータそのものは実はまだまだ露出アンダーな状態にあることがほとんどなのです。

レタッチソフトで RAWデータを開いても、これとほぼ同じ画像がポンと表示されますよね。レタッチソフトも、最初に RAWデータを開くときに現像処理をして、現像後の画像をユーザに表示するわけです。でも、レタッチソフトはそんな処理をしているなんて逐一言ったりしない(というより「言う必要が無い」)ので、ユーザはそれに気づかないだけなのです。レタッチソフトでのレタッチ(加工)とは、こうした現像処理が行われた画像を基準として、それに対して追加で行う処理のことです。風景写真や人物写真といった一般的な写真を加工する場合にはそれで十分なのですが、天体写真の場合にはもっと深いレベルから加工する必要があります。そして、そのためにはやはり RAWデータが必要なのです。ちなみに、レタッチソフトで開いた直後の画像は、カメラの撮って出し画像とは色合いも明るさもほんの僅かに違っていると思います。それは、上記の処理(例えば色調整での3色の配合の仕方)がカメラの画像エンジンとレタッチソフトとで僅かに異なるからです。

それともう一つ。ホワイトバランスは撮影時に設定するものではありますが、実は現像時に使われる情報なので、撮影時にどんなホワイトバランスに設定していても、RAWデータそのものは変わりません。したがって、RAWデータを使って画像処理し、色調整を自分でするのなら、撮影時のホワイトバランスの設定に意味はありません。

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6-2. 最初にすべき補正処理

天体写真が、一般的な風景写真や人物写真と異なる点(特徴)は何でしょうか。風景写真や人物写真では、カメラから被写体までの距離が様々で、ピントはそれに合わせて変えなければいけないのに対し、天体写真の被写体は常に無限遠にある、ということも特徴の一つですね。それに加えて、最も大きな特徴といえば、何といっても「被写体が暗い」ということでしょう。月や惑星くらいならまだ明るいのですが、星雲や星団といった所謂「星野写真」となると、被写体が非常に暗いので露光に長い時間をかけないと写りません。しかも、写ったところでコントラストが非常に低く、明るさのメリハリがあまりありません。天体写真はこのように暗く低コントラストな写真なので、画像処理して最終的には明るく高コントラストな写真に仕上げなければなりません。しかし、暗く低コントラストな写真を明るく高コントラストにするためには、幾つかの困難を解決する必要があります。

(1)  ノイズ

露光時間が長くなると、困った問題が発生します。それは、ノイズです。ノイズのある写真を明るく高コントラストな写真に処理しようとすると、ノイズまで強調されてしまいます。もちろん、ノイズが目立ったって天体写真には違いないのですが、ノイズが目立つと汚らしく見えてしまいますので、やはりノイズは除去するか、あるいは可能な限り減らした方が良いでしょう。

ノイズにもいろいろな種類があって、これらを分類するには、発生原因で分類する方法とノイズの出現形態で分類する方法があるかと思います。後者で分類するのであれば、主要なノイズとして以下の2つが挙げられます。

  • ランダムノイズ(Random Noise)
    • ランダムノイズという言葉は、月面写真編(第3回)でも出てきましたね。
      ランダムノイズは、全く同じ場所で、カメラの諸設定を全く同じにして撮影しても、毎回異なる位置の画素に不規則に発生するのでランダムノイズと呼ばれます。 センサに光が当たっていなくても素子自体の熱等によって勝手に電流(暗電流)が流れることに起因して現れたり、光が微弱なために計測に揺らぎが発生すること(ショットノイズ/フォトンノイズ)等に起因して現れたりします。 他にも、信号読み出し回路から混入されるランダムノイズもあります。

      発生原因にもよりますが、露光時間が長くなるほど振幅が大きくなるランダムノイズがあるので厄介です。このランダムノイズを画像処理によって減らすには、第3回でも述べたように、沢山の写真を重ね合わせる必要があります。何枚重ね合わせてもランダムノイズを完全に0にすることはできませんが、重ね合わせる枚数が多いほどノイズの振幅を小さくすることができます。

      ただし、複数の画像を重ね合わせる際には、一つ注意が必要です。
      月面写真編でも、月の位置を合わせてから重ね合わせましたよね。あれと同じように、星野写真でも各画像に写っている星の位置を合わせてから重ね合わせる必要があることを覚えておいてください。

  • 固定パターンノイズ(Fixed Pattern Noise)
    • 特定の画素が不自然に明るかったり暗かったりすることで現れるノイズです。例えば下図のようなものです。

      06_07_hotpixel
      図6-7. ホットピクセル

      中央やや右下に1ピクセルだけ非常に明るいピクセルがありますね。周囲に写っている星像と比べると明らかに不自然です。これはどの写真にも常に同じ位置に現れます。こうした固定パターンノイズを特にホットピクセルと呼びます。固定パターンノイズにも発生原因は複数あり、振幅が露光時間に比例する固定パターンノイズもあれば、振幅が露光時間には比例しない固定パターンノイズもあります。しかし、いずれにしても、このノイズは発生する画素の位置が特定できるので、パターンがわかってしまえば画像処理で比較的容易に修正できるノイズと言えます。

      ただ、例えばホットピクセルを含む RAWデータをそのまま現像すると、図6-8 のように、ホットピクセルだけでなくその周囲のピクセルまで滲んだように影響が及んでしまいます。

      06_08_hotpixel
      図6-8. ホットピクセルを現像すると・・・

      これは、debayer時に周辺ピクセルから足りない色情報を集めることでそのピクセルの色情報を補完しているからです。したがって、固定パターンノイズの修正処理は、現像後の画像にではなく、現像前の RAWデータに対して行う必要があります。

(2)  周辺減光

こうしたノイズの他にも困った問題(できれば補正したいもの)があります。光学系(レンズや望遠鏡)の特性に起因する周辺減光がそれです。

06_09_vignetting
図6-9. 周辺減光(少し強調してあります)

写真の中央付近に比べて周辺部は光量が少なくなるため、どうしても暗く写ってしまいます。風景写真や人物写真等では、中央付近のメインの被写体以外はピントが合わずにボケて写っていることが多く、こうした周辺減光は一つの味わいとされることがありますが、天体写真では写野内に写っている天体はすべて被写体であり、ピントは写野全面で同じように合っているはずなので、周辺部でも中央付近と同じ明るさで写っていないと見苦しく感じられてしまうことが多いです。この周辺減光も補正したいものの一つです。

(3)  バイアス

ノイズと周辺減光の他にもう一つ、これは困難というほどのものではないのですが、取り除いておきたいものがあります。

カメラのセンサーに光を当てずに、露出 0 秒で撮影することができたとしたら、それには何が写るでしょうか。現実的には露出 0 秒で撮影することはできないので、そのカメラの最短露出時間で撮影したものが、次の図6-10 です。

06_10_bias
図6-10. バイアス(EOS 6D)

光を当てず、最短露出時間で撮影しても、実は完全に真っ黒な画像にはなりません。これを bias(バイアス) と言います。バイアスは「読み出しノイズ(readout noise)」と言われることもあり、その名の通り、実はこれもノイズの一種なのですが、後の説明のためにここではあえて別出しにします。

デジタルカメラでは、たとえ露出0秒でも常にこのバイアスが「写り」ます。すべての写真は、このバイアスの上に光の情報が記録されたものです。つまり、デジタルカメラで写した写真はすべて、常に下駄を履いた状態になっているのです。本当の伸長を測るには、その下駄を脱いでもらわないといけません。この余分な下駄も除去しましょう。

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6-3. Pre processing (前処理)とは

ということで、星野写真を画像処理するのであれば、まず最初に主に以下の補正を目的とした処理を行います。

 ・ ランダムノイズの低減
 ・ 固定パターンノイズの除去
 ・ 周辺減光の補正
 ・ バイアスの除去

これらの補正を施す処理のことを、まとめて pre processing あるいは「前処理(まえしょり)」と呼びます。一般的な画像処理の世界でも、何らかの目的で画像処理を行う前に、ノイズを取り除くこと、および次の工程の処理の準備をすることを目的として行われる処理のことを前処理と言うことがありますから、それと同じです。

これらの補正処理は、どんな天体を写した写真であっても共通の方法と手順で処理することができます。つまり、人間がやる必要はなく、クリック一発でパソコンに処理させることができるということです。パソコンは元々そういうこと(決められたことを決められた手順でやること)が得意ですから、人間様がやるよりよっぽど手早くきれいに処理してくれます。

さらに、これらの補正処理と同様、debayer も決まり切った処理なので、debayer も加えて前処理と言います。PixInsight には、この前処理を自動的に実行してくれるプログラムが備わっていますので、次回は PI での前処理のやり方を説明しましょう。

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つづく

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