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2018年7月25日 (水)

PixInsightで画像処理を始めよう ~ 第9回 嗚呼、星はいい(4) 色調整、倍率色収差補正

【目次】

9-1. 測光的手法による色調整
9-2. 倍率色収差の補正


9-1. 測光的手法による色調整

前回 DBE で光害を除去して、やっと天体本来の姿が露出するようになりました。

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図9-1. 光害除去後の画像

次にやるべき処理は、色合わせです。前処理の段階で色合わせをしていなかったのは、まだ光害を除去していなかったからでもありますが、いずれにしても 8-2節で説明した通り、色合わせは画像がリニアな段階でやっておかないといけません。

ちなみに、この 図9-1 は STF で linked auto stretch したものです。R/G/B でストレッチの強さを変えると色が変わってしまうので、色合わせ以降のオートストレッチは R/G/B をリンクして行うことになります。したがって、これから行う色合わせの効果を前後比較したければ、この段階から linked auto stretch しておきましょう。この段階では、全体的にやや紫色っぽく見えますね。

ところで、カメラやレタッチソフトで現像するときには、予め決められた割合で R/G/B を配合するわけですが、果たしてそれは本当の色なのかというと、そんな保証はありません。それに、例えば「太陽光(昼光)」というホワイトバランスは、太陽の光を受けた状態で白が白に見えるということですよね。でも、天体(月や惑星を除く)は別に太陽の光を受けて見えているわけではありません。ですから、カメラのホワイトバランスなんか、厳密には当てにならないわけです。

もっと厳密で直接的な色合わせの方法はないものでしょうか。それが天体写真の場合にはあるんです。天体写真には、色の基準となるものが写っているからです。それは「星」です。

天文学の世界では、2つの異なる色フィルターを通して星の明るさ(等級)を測り、その差を color index(色指数)と呼んで星の色を表す物差しとして使っています。例えば、青系の光だけを通すフィルターで星を見た等級が B で、緑系の光だけを通すフィルターで測った等級が V だったとします。このとき、"B-V" をこの星の色指数とするわけです。

ちなみに、緑を V と表すのは、人間の目にとって最も感度の高い波長の光が緑であるためで、"Visual" からとった V を用います。B や V だけじゃなく、赤の R や、青より短い波長(紫外域)の U を測って、R-V とか、U-B なんかも色指数になります。これらの値は、カタログ(星表)にまとめられていて、インターネット等で広く公開されています。

その中で、とくに APASS という全天光度測量カタログに記載されている r'(Sloan r')、V(Johnson V)、B(Johnson B) の値に着目し、B-V と r'-V の2つの色指数を調べます。ここで、この r'、V、B をそれぞれ R、G、B に対応するものと見立てれば、B-V と r'-V はそれぞれ、デジカメで撮影した星の B:G ならびに R:G の比率に対応することになりますから、両者を合わせることによって、正確な色合わせができるはずですよね。こうした考え方で色調整をしてくれるプロセスが、PhotometricColorCalibration (PCC) です。

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図9-2. PhotometricColorCalibration (PCC)

PCC は R/G/B の比率をカタログと比較して合わせようというプロセスですから、画像がリニアでないと正しくできません。PCC での色合わせを画像がリニアな段階でやる理由はここにもあります。

では、使い方を見ていきましょう。あ、そうそう。PCC はインターネットでカタログを検索するので、当然ネット環境が必要です。注意してください。

(1) パラメータ設定(位置同定)

星の色指数を利用するからには、まず、写真に写っているのがどの星なのか(どこを撮った写真なのか)を特定する必要があります。これを plate solving と言ったりするのですが、そのために以下の情報を入力します。

09_03_pcc_imageparams
図9-3. Image Parameters

(a) 写真に写っている任意の点の赤経・赤緯
いきなり値を入力するのは難しいので、写真に写っている天体名からその位置を検索することで入力することが可能です。"Search Coordinates" ボタンを押すと 図9-4 のような検索画面がポップアップされます。Object 欄に天体名を入力して Search ボタンを押すと、検索が行われて天体の位置座標等が表示されます。今回の画像の場合、M23 が中央付近に写っていたので、その座標を検索しました。位置座標が表示されたら、Get ボタンを押すと PCC の方に反映されます。

09_04_searchcoor
図9-4. 座標検索

(b) 撮影日
歳差運動が影響を及ぼさない範囲で、だいたいの日付を入力すれば大丈夫です。
(c) 望遠鏡やレンズの焦点距離 (mm)
(d) カメラ(センサ)の画素サイズ (μm)
(c) と (d) は、写真の画角を求めるのに必要な情報です。画素サイズは、センサの大きさと画素数がわかれば求められますね。

入力が必須なのはこれだけです。

(2) パラメータ設定(Background Neutralization)

今回はこれに加えて Background Neutralization も入力することにします。DBE実行後であれば、してもしなくてもそれほど大きく変わらないとは思いますが、一応解説ですから念のため。Background Neutralization (BN) というプロセスは月の画像処理(第5回)でも使いましたが、指定したバックグラウンド領域の色をニュートラルにしてくれます。

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図9-5. Background Neutralization

「ここはバックグラウンドだろう」と思われる領域を preview 領域で囲んで、"Region of Interest" の "From Preview" ボタンからその領域の範囲を入力します。ただし、今回の画像の場合、明確にバックグラウンドだと言える領域はないと言っても過言ではありません。そんなときには、とくに暗そうな領域を慎重に選んでそこをバックグラウンドとみなしても大丈夫でしょう。

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図9-6. ここをバックグラウンドとする

そして、その領域の中でとくに「この値以下のピクセルをバックグラウンドとみなしなさい」という値を "Upper limit" に設定します。例えば、バックグラウンド領域として囲んだ領域の中にも微光星が写っているかもしれません。微光星はもちろんバックグラウンドではありませんから、それを除くわけです。任意のピクセル値を確認するには、ツールバーの "Readout Mode" をオンにして画像上をマウスでクリックすると、Readout Preview 画面が表示されるので、それで確認することができます。

09_07_bnupperlimit
図9-7. Readoutモードでバックグラウンドの値を確認

今回の場合、"0.006" 以下のピクセルをバックグラウンドとみなせば良さそうだったので、図9-5 の "Upper limit" にはそのように設定してあります。

(3) 実行、および "Limit magnitude" の調整

ここまで設定すれば、あとは実行するだけです。実行すると、前述の通り、その写真がどこを撮った写真なのか(写っているのはどの星か)を特定する処理(plate solving)から始まります。その plate solving が正常に終わると、以下のような解析結果が console に出力されるので、それが目安になりますね。

09_08_pcc_solve_console
図9-8. plate solving 成功

Plate solving が終われば個々の星が特定できるので、続けて色指数の比較が始まります。

が、ここで一つ注意が必要です。写真に写っている星ひとつひとつの R/G/B の比率は決して正確なものではなく、カタログの値と比較するとどうしてもある程度のバラつきが出てしまいます。したがって、なるべく沢山の星の色指数を比較して、それらの統計をとらないと正しい色合わせができません。

沢山の星を比較対象とするには、"Photometry Parameters" の "Automatic limit magnitude" を無効にして、"Limit magnitude" の値を大きくしてください。すると、その等級の星まで調べてくれることになっています。

09_09_pcc_photometryparams
図9-9. Limit magnitude を変更

ただし、2018年6月末現在のバージョンだと、Limit magnitude をあまり大きくしすぎると PCC はエラーで終了してしまいます。それでエラー終了してしまうのは、プログラムとして如何なものかと思いますが、PCC は開発されて日が浅いプロセスですから、今後改善されていくのではないかと期待しています。とにかく、Limit magnitude は、エラー終了しない範囲で、なるべく大きな値を指定すると良いでしょう。

ちなみに、Automatic limit magnitude を有効にしたままで実行すると、検索する星の数が少なすぎるケースが多いと思います。なので、最初から Limit magnitude を 12 ~ 15 くらいにして実行すると良いかもしれません。この辺は画像によって違うので一概には言えませんが、それで一度実行してみて、plate solving はできているのに、その後、エラー終了してしまうようなら、Limit magnitude を少し小さくして再実行してみてください。

PCC で処理した結果、図9-1 は以下のようになりました。

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図9-10. PCC で色合わせ完了

色合いが変わっているのがわかりますね。なお、これは STF でオートストレッチしたものです。オートストレッチのような非線形ストレッチをすると、8-2節で見た通り、色が薄くなります。色が薄くなってこのくらいに変わるということは、実際の色は、もっとはっきり変わっているということを理解しましょう。

なお、処理をやり直す場合には、ツールバーの Undo ボタンを押すことで一つ前の状態に戻すことができます。また、Undo/Redo を繰り返し押すことで処理前後の画像を連続表示して比較することもできます。

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図9-11. Undo/Redo

さて、ここまでご覧になってお分かりの通り、PCC での色合わせには、人それぞれの好みや思い込みといった主観が入り込む余地はほとんどありません。自分の好みを反映できないというところに、不満を感じる人も中にはおられるかもしれませんが、天体写真において、正確な色の再現が一つのテーマであることは間違いありません。もちろん、PCC で完全に正確な色を再現できるわけではありませんが、非常に科学的で優れたアプローチと言えます。

また、第6回で述べた通り、カメラで現像したり、あるいは RAWデータを直接現像できるプログラムで現像する場合、R/G/B を既定の比率で配合することで色合わせを行います。それに対して PCC は、言わば「現物を見て」、カタログという基準と照らし合わせたうえで R/G/B の配合を調整します。ここでは、どちらがより正しいのかという議論はしませんが、少なくとも PCC によるアプローチは、大きな「可能性」を感じさせてくれますね。

これまでレタッチソフト等を使った色合わせに苦労していた人は多いでしょう。あれこれ弄っているうちに何が何だか分からなくなった、という経験も数多くされていることでしょう。PCC は、そんな苦労からあなたを解放してくれる強い味方です。PCC で色調整して「これはこんな色をしていたのか」と驚くことも多いかと思います。ぜひ一度、試してみてください。

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9-2. 倍率色収差の補正

PCC を使って色合わせは終わりましたが、周辺部に写っている星をよく見ると、放射方向に赤い光と青い光が少し分離して写っています。こういうのを倍率色収差と言い、屈折レンズを使った光学系の場合には、ある程度避けられない収差です。

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図9-12. 左下周辺部の倍率色収差(2:1拡大)

もちろん、倍率色収差は、光学性能の高い高級な光学系を使えばほとんど目立たずに済むことが多いです。この画像でも、2:1に拡大してこの程度なので、そんなに酷く目立つというほどではないのですが、補正できるものなら補正したいですよね。

倍率色収差を補正する方法は幾つかありますが、まずは画像を R/G/B それぞれのチャンネルに分けて見てみましょう。メニューバーから IMAGE > Extract > Split RGB Channels を選択して3つのチャンネルに分割してください。

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図9-13. R/G/Bに分割

分割すると、名前が "XXXX_R"(R画像)、"XXXX_G"(G画像)、"XXXX_B"(B画像)という画像が3つ出力されます。これら3つの画像を比較すると、星が写っている位置が僅かにズレていることがわかります。

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図9-14. R/G/B画像を比較(2:1拡大)

このように3色で星の位置がズレているから色が分離したように見ていたわけです。なら、この位置のズレを補正することができれば、倍率色収差を無くすことができるはずですね。そこで、StarAlignment (SA) プロセスを使います。

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図9-15. StarAlignment

SA はその名の通り、自動的に星の位置を揃える、すなわち位置合わせ(registration)をするためのプロセスで、主に前処理(pre processing)で使われます。第7回で紹介した BPP も、内部で SA が動いています。この SA もまた PI を代表する優れものプロセスの一つです。今回はこれを使って倍率色収差を補正しましょう。

やり方は簡単です。今回は、G画像を基準(reference)として、R画像と B画像の星の位置を補正することとします。まず、"Reference image" に先ほど分割した G画像を入力します。右側の三角マークから選択することができます。設定は基本的にはこれだけです。これで、一番下の三角マークを R画像と B画像にドラッグ・アンド・ドロップしてください。

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図9-16. SAを実行

すると、"XXXX_registered" という名前の画像が新たに出力されます。これが、補正後の画像です。R画像と B画像を補正できたら、ChannelCombination プロセスでそれらを再合成します。

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図9-17. ChannelCombination で再合成

R および B には、先ほど補正された画像を入力します。入力する画像は、右端の四角いボタンから選択することができます。R/G/B それぞれの画像を指定したら、左下の丸ボタン(Apply Global)を押せば合成できます。合成後の画像を元の画像と比べてみましょう。

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図9-18. 補正前後の画像比較(2:1拡大)

もちろん完璧ではありませんが、かなり奇麗に補正されているのがわかると思います。

なお、パラメータの中にはさらに精度を上げられるパラメータがありますが、今回の画像の場合、パラメータをすべてデフォルトのまま実行したケースと比較してほとんど結果が変わりませんでした。パラメータがデフォルトのままでも大抵良い結果が得られるというところが、SA の優れた点の一つだと思います。

【補足】天体写真の色についてはこちら

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つづく

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