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2018年7月25日 (水)

PixInsightで画像処理を始めよう ~ 第9.5回 【補足】 天体写真の色

【目次】

9.5-1. 星の色に着目
9.5-2. 色指数
9.5-3. 銀河の色は星の色


9.5-1. 星の色に着目

観賞用の天体写真は芸術写真とも言えますから、どんな色に仕上げても表現の自由として許されるべきだと思うのですが、本来の色の再現を目指すのであれば、留意すべきことがあります。

まず、天体写真の色調補正の際に基準となるのは星です。星雲ではありません。もちろん、原理的には星雲も基準になりうるのですが、今のところ基準となるのは星だけです。まず最初に星を見ましょう。星はほぼ完全な黒体放射(黒体輻射)で輝いていると考えられるため、その色は表面温度によって決まります。温度が高いと青白く、低いと赤っぽく輝きます。緑色やピンク色の星は存在しません。

一方、真っ赤な星はどうでしょう。赤いということは、星としては表面温度が非常に低いということです。表面温度が低い星と言えば、そのほとんどが質量の小さい赤色矮星です。赤色矮星は、数の上では宇宙で最も多く存在するタイプの星と考えられていますから、一番沢山写ってもよさそうに思えますが、実はそうではありません。

質量が小さくなると明るさは急激に暗くなります。太陽系から最も近くにある恒星として知られるプロキシマ・ケンタウリは、4.25光年という至近距離にあるにもかかわらず、見かけの明るさは11等星で、とても肉眼では見えません。これより小さくなれば、色はさらに赤くなりますが、明るさはどんどん暗くなります。遠くにあれば一層暗くなります。ということで、真っ赤な星はたくさん存在するものの、天体写真にはところどころに暗く小さくポチっと写る程度に過ぎなくなります。

ある種の色収差や最微光星を除いて、多くの星の色がそのような存在しないはずの色やほとんど写らないはずの色になっていた場合には、色調補正に失敗しているということを意味します。

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9.5-2. 色指数

第9回でも述べた色指数は、個々の星の色を推定するのに重要な情報です。星の色指数は、例えば stellarium といったプラネタリウムソフトでも調べることができます。

色指数の元となる B とか V とかいう値は、その色のフィルターを通して測った星の等級(明るさ)ですから、暗いほど大きな値となります。V(緑)より B(青)が暗ければ、B の方が大きな値ですから、色指数 B-V は正の値となります。青が暗いということは、その星は赤っぽい星だろうと推察できますよね。したがって、色指数 B-V が大きな値であるほど、その星は赤っぽい星ということになります。

この色指数の説明でよく例として挙げられるのが、はくちょう座のサドル(Sadr)という星です。サドルは、はくちょう座の十字の交点の星で、はくちょうのお腹にあたる星ですが、この星の色指数 B-V は、0.67 もしくは 0.68(カタログによって多少の違いはあります)です。

09_05_01_stellarium
図9.5-1. stellarium で見たサドル

対して、私たちの太陽の色指数 B-V は 0.65。つまり、サドルは太陽とほぼ同じ色であり、白もしくは薄っすら黄色だろうと推測することができます。実際、PCC で色調補正を行ったサドル周辺の写真を見てみるとこんな感じです。

09_05_02_sadr
図9.5-2. サドル周辺 (クリックすると高解像度版に飛びます)

この写真は薄曇りの条件下で撮影したので、出来はあまり良くありませんが、中央付近に見える輝星がサドルです。ほぼ白ですよね。高解像度版で見るとよくわかると思います。他にも、オレンジ色と思われる星はしっかりオレンジ色に写っています。もちろん、これが正しい色だなどと言うつもりは毛頭なく、ツッコミどころもあって全体的な出来は良くないので、この写真を全面的に信じてはいけませんが、一つの参考にはしていただけると思います。

ところで、皆さんの中に、青が嫌いという人はほとんどいないでしょう。天体写真も青っぽく仕上げたくなる人は多いと思います。とくにこの領域は、この写真を見てお分かりの通り赤が非常に目立つので、色のバランス的にもついつい青を入れたくなりますよね。しかし、そうして青が目立つように処理し過ぎると、サドルが青くなる、オレンジ色のはずの星が黄緑色になる、といったことが往々にして起こります。

また、地球の大気を通して天体を見ると、大気によって青い光が散乱されて少なくなるはずなので、宇宙から見たらもっと青いはずだ、と考える人もいるでしょう。もちろん、その考察自体は正しいと思いますが、これにも注意が必要です。大気によって減衰するのは青い光だけではありません。水蒸気や二酸化炭素による吸収等もあって、他の色の光もまんべんなく減衰しています。果たして大気中で R/G/B がそれぞれどの程度減衰しているのか、定量的な考察が無いと問題です。定量的な考察のないまま、たった一つの定性的な考察を根拠に青だけを強くしていると、結局は自分の感性の赴くままに、自分の好みの色になるまで青くしてしまいがちで、何の根拠もないまま色合わせをするのと同じことになってしまいます。

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9.5-3. 銀河の色は星の色

天体写真の主要なターゲットの一つに系外銀河(私達の銀河系ではない別の銀河)もありますね。とくに長焦点の大砲をお持ちの方には最大の獲物かもしれません。ご存知の方も多いと思いますが、銀河は星の集まりです。ということは、その色はそこに含まれる星によって決まります。

一口に銀河と言っても、渦巻き銀河や楕円銀河など幾つかの種類があるのですが、実は銀河の色も、その種類に応じた傾向があります。楕円銀河やレンズ状銀河(S0銀河)には、共通的に星形成領域がほとんどないことが知られています。つまり、ほとんど星が新しく生まれていないということです。

青い星は質量が大きいのですが、質量が大きいと寿命が短くなります。反対に、赤っぽい星は質量が小さく、寿命が長い星です。青い星はすぐに寿命を終えて消えてしまうので、それがたくさん存在するには、常に新しく生み出され続けなければいけません。

したがって、楕円銀河やレンズ状銀河に星形成領域がほとんどないということは、これらの銀河には寿命の短い青い星はほとんどなく、長寿命の赤っぽい星が多いということが推察できます。ほとんど赤っぽい星だけが含まれるのなら、その銀河は赤っぽくなりますよね。そうなんです。楕円銀河やレンズ状銀河は、黄色からオレンジ色をしているのです。春の銀河祭りの主役「おとめ座銀河団」を写すと、そうした銀河が沢山写ります。

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図9.5-3. おとめ座銀河団 (クリックすると高解像度版に飛びます)

これはかなり彩度を上げた画像ではあるのですが、楕円銀河やレンズ状銀河は、黄色あるいはオレンジ色っぽく写っています。PCC を使うと、こうした色合いも如実に再現されて驚きます。

もちろん、最初に言った通り、芸術作品ですから星やその他の天体をどんな色に仕上げても自由ですし、それは別に構いません。そもそも、天体改造カメラで写せば、とくに赤い星雲なんかはもはや人間が目で見た通りには土台写りません。(Hα線は、人間の目には感度がそれほど良くないので、どす黒い赤に見えるはずです。)

フォトコンの厳しい審査員等から星や銀河の色についての指摘を受けたとしても、「偉い人にはこの美しさがわからんのですよ!」と言って意に介さないくらいの気骨の持ち主には、ある種の好感を持ちます。あまり厳しいことばかり言っていると、新海誠監督の作品は見られません(笑)。

しかし、「写真である以上、人間が目で見た通りの色の再現に努めるべき」というのも一理ある主張であって、天体写真にとって本来の色の再現が大きなテーマの一つであることは間違いありません。星の色を正しく調整出来れば、それに伴ってその他の天体の色も本来の色に近くなりますから、まずは星の色に気を付けてみてください。

また、天体写真を上手に仕上げるには、物理学や天文学の知識が多少必要となることがあります。そうした知識も敬遠せずにどんどん吸収するように心がけましょう。

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<つづく>

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