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2018年9月

2018年9月 2日 (日)

PixInsightで画像処理を始めよう ~ 第12回 嗚呼、星はいい(7) 主なレタッチ処理1

【目次】

12-1. 星像を小さくする(スターリダクション)
 (1) MorphologicalTransformation (MT) 再び
 (2) 周辺部の星だけを小さくする
 (3) UnsharpMask でシャープに
12-2. コントラスト強調
12-3. 暗黒帯を強調する


通常、天体写真の画像処理は、第10回のストレッチまででほぼ出来上がりです。今回の素材画像の場合は星ハロが目立ったので、前回(第11回)それを除去しましたが、星ハロが気にならない画像であれば不要な処理です。そして今回は、天体写真の画像処理でよく使われる仕上げの加工処理について、代表的なものを幾つか紹介していこうと思います。

以前も述べましたが、これから紹介する処理はすべての天体写真に必須の処理ではありませんし、決まった順番があるわけでもありません。画像に応じて、必要な処理だけを選んでやってください。また、やり方や考え方がわかれば、所謂レタッチソフトでも実現することはある程度可能だろうと思います。レタッチソフトでの処理に慣れている方は、この連載で考え方だけを吸収し、使い慣れたソフトで同じことをやってみる、というスタンスでも良いと思います。

12-1. 星像を小さくする(スターリダクション)

前回は盛大に出ていた星ハロを除去しました。その画像をもう一度見てみましょう。

12_01_afterrmhalo
図12-1. 星ハロ除去後の画像

これはこれで十分な気もしますが、これでもやや星が目立ちすぎてやかましいと感じる人もいるかもしれませんね。そういう場合には、星像を少し小さくしましょう。星像を小さくすると小さな星は消えて星の数が減るので、スターリダクションとも呼ばれます。

(1) MorphologicalTransformation (MT) 再び

星像を小さくすると言えば、星ハロ除去でも使った MT ですね。多くのレタッチソフトで「明るさの最小値」「明るさの最大値」として知られているフィルターに相当する処理を行うことができます。

ですが、処理の前に、まずはこの時点でのスターマスクを作りましょう。基本的な作り方は 11-3節(1) の通りです。大きく写った輝星がある場合には、MLT の Layers の値を変えることで微光星と輝星に分けてスターマスクを作り、それらを PixelMath で合成した方が良いケースが多いと思います。合成には max() 関数を次のように使って、いわゆる「比較明合成」をすると良いでしょう。

 max([微光星のスターマスク], [輝星のスターマスク])

今回は 図12-1 の画像のスターマスクとして以下のマスク画像を作りました。

12_02_starmask1
図12-2. スターマスク

これを 図12-1 にかけて、MT を Erosion で実行します。

12_03_mt
図12-3. MT

このとき、MT の Size というパラメータを大きくすると、一気に星を小さくしたり、微光星を消したりすることができるようになります。星が小さくなると、あるいは星の数が少なくなると、相対的に星雲が目立つようになるので、星の数をドカンと減らしてほとんど星が目立たないくらいにし、星雲を思いっきり目立たせるように仕上げる、というのも表現方法の一つだと思います。

しかし、「せっかく写っているものをあまり消したくはない」とか、「星が写ってこそ天体写真だ」といった考え方もあるかと思います。私もどちらかというとそう考えるタイプでして、せっかく写っているものを消すのはもったいないということで、Size を最小の 3 にし、Amount も 0.5~0.6 くらいに小さくすることが多いです。Amount をさらに小さくしてもう一度実行することもあります。どの程度が正解ということはないので、お好みで調整してください。今回は、中央やや左に写っている散開星団(M23)が分離した状態を保持している段階で止めることとしました。

12_04_sr
図12-4. MTでスターリダクション(全体)

12_05_srx2
図12-5. MTでスターリダクション(中央を2:1拡大)

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(2) 周辺部の星だけを小さくする

光学系の中には、中央部はシャープでも周辺部は星が少しぼやけて写ってしまうものも多いでしょう。周辺部まで全面シャープな光学系はなかなか無いものです。今回の画像も、中央部に比べて周辺部の星は若干ぼやけて大きく写ってしまっていますので、周辺部の星だけを小さくするという処理も加えたいと思います。

ここでもやはりマスクを使うのですが、要するに、図12-2 のスターマスクのうち周辺部だけを抽出したものを作れば良いわけです。そこで、PixelMath に以下のような式を書いてみましょう。

RGB/K: r=rdist(cen_x, cen_y);
iif(r<R, (r/R)^3, 1)
Symbols: r, cen_x=2700, cen_y=1550, R=2700

12_06_pixelmath
図12-6. PixelMath(円形グラデーション)

要するに、点(cen_x, cen_y) を中心とした半径 R の円形グラデーションを描こうというわけです。円の外側の明るさは 1 です。画像を見て、この辺が光軸中心だろうと思われるだいたいの点の座標を (cen_x, cen_y) に入力し、半径 R も画像に応じて適宜変えてください。これを対象画像に対して実行すると、次のような画像ができます。

12_07_circle_grad
図12-7. 円形グラデーション

指定した中心点が真っ暗で、そこから離れるにつれて徐々に明るくなるグラデーションができました。ちなみに、このグラデーションは、中心からある程度のところまではほとんど明るくならず、ある程度離れるとそこから急激に明るくなる、という工夫をしています。レンズや望遠鏡も、光軸の中心からある程度の距離までは収差が少なくて、ある程度の距離が離れるとそこから急激に収差が大きくなるのが一般的でしょう。グラデーションもなるべくそれに合わせるのが理想的です。あとは、このマスクとスターマスクとを掛け合わせれば、周辺部だけのスターマスクができます。

12_08_starmask_corner
図12-8. 周辺部のみのスターマスク

これを 図12-4 に適用して、再度 MT を実行します。

12_09_sr_corner
図12-9. 周辺部のみスターリダクション(前後比較)

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(3) UnsharpMask でシャープに

MT でスターリダクションを行うと、星像のシャープさが失われることが多くあります。このまま星を消すのならそれでも構いませんが、星を残すのであれば、星像にはある程度のシャープさが欲しいところです。そこで、もう一度 図12-2 のスターマスクを適用して UnsharpMask を実行することにします。

12_10_unsharpmask
図12-10. UnsharpMask

UnsharpMask も大抵のレタッチソフトで使えると思いますが、これを実行すると、画像に写っている被写体のエッジ(輪郭)が鋭くなります。エッジが鋭くなると、画像がシャープになったように見える効果があるので、天体写真に限らず色んな画像処理でよく使われると思います。

星像をシャープにするために UnsharpMask を使うときのコツとして、「あまりシャープにしすぎない」ということが挙げられると思います。あまりシャープにしすぎると、星像としては逆に不自然に見えてしまうからです。なので、MT で星像を小さくした後、UnsharpMask を適用しない人も多いと思います。この辺は人それぞれの好みの問題でしょう。

PI の UnsharpMask の場合、StdDev を大きくすると、被写体のエッジをよりなだらかにシャープにする(表現として矛盾していますけど(笑))ことができるようになります。また、私は Amount もデフォルトの 0.8 より小さくして、あまりシャープになりすぎないように調整することが多いです。

MT と UnsharpMask を上手に使ってスターリダクションを行うと、自然なシャープさを保ったまま星像を小さくすることができます。

12_11_apply_mtusm
図12-11. MT と UnsharpMask でスターリダクション(中央を2:1拡大)

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12-2. コントラスト強調

天体写真は、明るい部分がベタっと明るくなってしまったり、逆に暗い部分もあまり明暗の差がなかったりして、部分的にコントラストが悪い場合が多いと思います。

12_12_after_sr
図12-12. 部分的にやや低コントラスト

ここまで様々な処理を施してきたこの画像も、とくに天の川がベタっと明るくなってしまって、ややコントラストが悪い印象があります。(そんなことないと言えばそんなことないのですが、これも人それぞれの好みの問題かもしれません。)

そんなときにはコントラスト強調を行います。よく使われるのは、月面写真編の第5回でも登場した LocalHistogramEqualization (LHE) でしょう。

12_13_lhe
図12-13. LocalHistogramEqualization (LHE)

LHE は所謂「ローカルコントラスト」を向上させるための処理で、これを適用すると、淡い星雲のエッジや明るい領域内の細かい模様が強調される効果があります。第5.5回でも紹介した通り Image Processing Tips でも取り上げていますので、詳しく知りたい方はそちらをご覧ください。

星野写真の場合には、LHEを使うときにもマスクを作った方が良いでしょう。今回は RangeSelection でマスクを作ることにします。

12_14_rangeselection
図12-14. RangeSelection

Lower limit は、簡単に言うと、それより暗いピクセルを 0(真っ黒)にするという意味で、Upper limit は、その明るさのピクセルを 1(真っ白)にし、それより明るいピクセルを真っ黒にするという意味のパラメータです。つまり、Lower limit から Upper limit までの範囲(Range)の明るさのピクセルだけを抽出し、グラデーションを付けてマスクを作るということになります。左下の白丸ボタンを押してリアルタイムプレビューを表示させ、それを見ながらパラメータを調整すると良いでしょう。

今回は、比較的明るい部分だけのマスクを作ります。図12-14 の RangeSelection を対象画像(図12-12)に対して実行すると、図12-15 のようなマスクができます。

12_15_lhe_mask
図12-15. LHE用のマスク

これを 図12-12 に適用して、LHE を実行します。LHE の使い方は、第5回の 5-2節(2) に書いてありますので、そちらを参照してください。リアルタイムプレビューを見ながらパラメータを調整します。

12_16_apply_lhe
図12-16. LHE実行

比較的明るい領域の陰影が強調されましたね。LHE では、Kernel Radius のパラメータが非常に重要で、これを変えると印象が全く違った画像になります。

12_17_lhe_kr
図12-17. Kernel Radius を変えると・・・

これは LHE の効果がわかりやすいように Amount をやや大きくしたものですが、Kernel Radius を小さくすると小さなスケールの構造(模様)が強調され、大きくすると大きなスケールの構造が強調されます。とくに目立たせたい模様が最もはっきりと強調されるような値をリアルタイムプレビューで探してください。

また、暗い部分のコントラストを上げたければ、暗い部分だけのマスクを作り、それを適用して LHE を実行してください。このとき、暗い領域にはそれほど細かな模様はないことが多いので、Kernel Radius は明るい領域よりも大きくすることが多いと思います。

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12-3. 暗黒帯を強調する

コントラストを上げる代表的なツールとして LHE を紹介しましたが、ここでもう一つ、別のアプローチによって全体的なコントラストを上げるツールを紹介しましょう。そのアプローチを端的に言うと「暗いところをより暗くする」というアプローチです。

12_18_after_lhe
図12-18. 元画像

この画像を見ると、天の川の真ん中を走る暗黒帯周辺がぼやっと明るい印象を受けますね。そこで、この暗黒帯の明るさを落として、その周辺領域の明るさにメリハリをつけたいところです。ところが、左上から対角線上に走る暗黒帯よりも、実は右上の赤い輝線星雲 Sh2-27 の方がむしろ暗いのです。したがって、単純に輝度情報だけを基に RangeSelection によって「明るいところ」と「暗いところ」を区別しようとすると、図12-19 のように暗黒帯とともに Sh2-27 周辺も黒くなります。

12_19_range_mask
図12-19. 輝度だけを基に作ったマスク

これをマスクにして暗黒帯をより暗くしようとすると、次の図12-20 のように Sh2-27 周辺まで漏れなく暗くなってしまいます。

12_20_darkreduc
図12-20. 図12-19をマスクにして輝度を落とすと・・・

せっかく浮かび上がっていた淡い星雲が暗くなってしまっては、ちょっと残念ですよね。もちろん、レタッチソフトなら、塗り絵用のツールを使って、狙ったところだけを処理するようなマスクを意図的に作ることもできるでしょうが、写真はあくまで写真であって塗り絵ではないので、なるべくそういったことはやらない方向で何か良い手だてはないものでしょうか。

そんなときに使えるのが、DarkStructureEnhance (DSE) というスクリプトです。メニューバーから "SCRIPT" > "Utility" > "DarkStructureEnhance" と辿って起動してください。

12_21_dse
図12-21. DarkStructureEnhance (DSE)

これは、ある大きさのスケールで見たときに顕著に現れる明暗の差を捉えて、それを基に暗い領域をより暗くするツールです。ただ、そう言われてもすぐにはピンとこないでしょうから、まずは第4.5回でも説明した ExtractWaveletLayers (EWL) スクリプトを用いて図12-18 をレイヤー分解してみましょう。

12_22_ewl
図12-22. ExtractWaveletLayers (EWL)

すると、次のような構造が見えてきます。

12_23_layers
図12-23. レイヤー分解した画像

これらを見ると、Layer07 あたりで、天の川の中心を流れる暗黒帯が比較的明確に見えていますよね。一方、右上に写っているはずの輝線星雲 Sh2-27 は、これにはあまりはっきりとは見えていません。DSE はこれを利用して、特定の大きさのレイヤーではっきり見える暗黒帯を暗くしてくれます。

ExtractWaveletLayers での Layer07 は、その他のツールでは Layer 8 に相当するので、DSE の "Layers to remove" を 8 にし、Amount を適宜変えて "OK" ボタンを押すと、以下のようになります。

12_24_after_dse
図12-24. DSEで暗黒帯を暗く強調

暗黒帯だけが暗くなって、メリハリの利いた画像になりましたね。一方、Sh2-27 周辺の明るさはとくに変わっていません。このように、DSE を使うと、単に暗い領域というわけではなく、明るい領域の中にある暗い領域を効率的に暗くすることができます。

なお、DSE で Iteration の回数を増やすと、暗黒帯がどんどん暗くなっていきます。必要に応じて Layers to remove を変えて複数回実行すると良いかもしれません。

こういうツールはレタッチソフトにはなかなか無いかもしれませんね。このように、SCRIPT の中には意外と便利で「使える」ツールが沢山隠れていますので、PROCESS だけでなく、SCRIPT の方もいろいろと試して遊んでみると面白いでしょう。

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つづく

2018年9月14日 (金)

PixInsightで画像処理を始めよう ~ 最終回 嗚呼、星はいい(8) 主なレタッチ処理2

【目次】

13-1. 赤と青を強調する
 (1) Lab色空間を利用して赤っぽい領域を強調
 (2) マスクをもう少し工夫しよう
 (3) 青を強調
13-2. 最後のまとめ
 (1) PixInsight こそ初心者向け
 (2) 初心者でも気軽に天体写真を


 

前回まで12回に亘って続けてきた本連載も今回でいよいよ最終回です。今回も、まずは前回に引き続いて、主なレタッチ処理についてご紹介していきたいと思います。

 

13-1. 赤と青を強調する

13_01_org
図13-1. 元画像

ここまで、PCC で測光的な手法で色合わせをし、ArcsinhStretch でその色を保存したまま明るくしたのですから、色合いに関してはもうこれ以上何もする必要はないはずです。でも、ときには赤い星雲や青い星雲をもう少し鮮やかに目立たせて美しく仕上げたくなる、というのは人情というものでしょう。

しかし、トーンカーブ等で単純に R(あるいは B )を増やすと、赤(青)くない領域までもが赤(青)くなって、全体の色合いが変わってしまいます。なので、赤っぽいところだけをより赤く、青っぽいところだけをより青く強調する必要があります。そのためには、赤っぽいところだけ、あるいは青っぽいところだけを抽出したマスクを作れば良いのです。

そのマスクを作る方法には複数あって、最も代表的なものは、G 画像を基準に R(B)画像の方が明るいピクセルだけを抜き出す、つまり "R - G" や "B - G" といった引き算した画像をマスクにするという方法があります。しかし、ここでは別の方法を紹介しましょう。

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(1) Lab色空間を利用して赤っぽい領域を強調

それは、Lab色空間を利用するという方法です。Lab色空間と言っても厳密には何種類かあるのですが、ここでは CIE L*a*b*(CIELAB)色空間 のことを指すものとします。この Lab色空間にはその名の通り L、a、b、の3つの座標軸があります。まず、L は明度を表します。そして a は、赤(マゼンタ)か緑かを表す座標に対応していて、a が大きな値であるほどマゼンタっぽい色、小さな値であるほど緑っぽい色になります。一方 b は、黄色か青かを表す座標に対応していて、b が大きな値であるほど黄色っぽい色、小さな値であるほど青っぽい色になります。この Lab色空間で見て、赤(マゼンタ)っぽい、あるいは青っぽいピクセルを抜き出してみましょう。PixelMath(PM)に以下のように記述してみてください。

RGB/K:CIEa($T)-m
Symbols:m=0.5

13_02_pm_r_a
図13-2. PixelMath

CIEa($T) は、各ピクセルの Lab色空間での a成分の値を返してきます。したがって、m=0.5 であれば、a の座標値が 0.5 よりも大きなピクセルだけを抜き出すことになります。この PM を 図13-1 に対して実行すると次のような画像が出力されます。

13_03_output_pma
図13-3. 出力画像(STFでオートストレッチ)

これがマスクの元になります。どの辺の色を強調させたいかによって m の値を適宜変えてください。これをさらに STF や HT で調整して以下のようなマスク画像を作ります。

13_04_a_mask1
図13-4. aマスク1

元画像でとくに赤を目立たせたい領域だけが残るようにするわけですね。便宜上、これを aマスク と呼ぶことにしましょう。これを元画像にかけて、aマスクが白っぽくなっている部分の色を強調します。

色を強調するには、通常、CurvesTransformation(CT)が使われることが多いと思います。CT はこの連載でも既に何度か紹介していますが、これは所謂トーンカーブのツールです。マスクで選択された領域の赤い色を強調したければ、CT を使って以下に示すように、component selection から Red channelCIE a* component、もしくは Saturation を選択してカーブを左上に反らせます。

13_05_amask1_r
図13-5. Red channel を増幅

13_06_amask1_a
図13-6. CIE a* component(a成分)を増幅

13_07_amask1_s
図13-7. Saturation(彩度)を上げる

Lab色空間は人間の視覚に近い色空間であるためか、少し値を変えただけで色合いが大きく変わったように見えます。個人的には彩度を上げるのが良いかと思いますが、これは好みの問題ですので、一度試したうえで自分なりに選択してください。

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(2) マスクをもう少し工夫しよう

図13-4 のような aマスクでももちろん構いませんが、このマスクは明るい領域ほどより白っぽくなっていますね。これだと、元々明るかった領域の色がより強調されることになります。

明るい領域だけではなく、むしろ「暗いけど赤い領域」を目立たせるようなマスクを作ってみましょう。今度は PixelMath に次のように書いてみてください。

RGB/K:(CIEa($T)-m) / CIEL($T)
Symbols:m=0.5

CIEL($T) は、各ピクセルの Lab色空間での L成分の値、すなわち明るさです。それで割るということは、同じ程度の赤さであっても、より暗いピクセルの方が大きな値になるということです。これで作った aマスクが次の画像です。

13_08_a_mask2
図13-8. aマスク2

先ほどの 図13-4 の aマスクとはちょっと趣が異なりますね。「より赤い」だけでなく「より暗い」ピクセルがより白くなっています。このマスクを元画像にかけて CT で彩度等を強調すると、次のようになります。

13_09_amask2_s
図13-9. aマスク2で赤を強調

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(3) 青を強調

Lab色空間を利用して青っぽい領域を強調するようなマスクを作る場合には、今度は PM に以下のように書いてください。

RGB/K:m-CIEb($T)
Symbols:m=0.5

CIEb($T) は、各ピクセルの b成分です。これで、青っぽいピクセルだけを抜き出すことができます。(1)の時と同様、m の値は適宜調整してください。これを基画像に対して実行すると、次のようなマスクができます。

13_10_b_mask
図13-10. bマスク

これを bマスクと呼ぶことにしましょう。後は(1)や(2)と同様の方法で、青っぽい領域を強調することができます。

13_11_bmask_s
図13-11. 青を強調

もともと青が少ない領域なのでほとんど変わっていないように見えますが、よく見ると青い星がより鮮やかになっていることがわかります。

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13-2. 最後のまとめ

第7回の前処理から始まった星野写真の画像処理も、これにてひとまず終わりとしましょう。それでは、これまで紹介してきた処理によって仕上がった完成画像をご覧ください。

13_12_final
図13-12. 完成画像例 (クリックすると高解像度版に飛びます)

カメラが現像したJPEG撮って出しと比べると、もはや別物と言った方が良いくらいですね。あのカメラとあのレンズでこれだけの表現ができれば十分でしょう。

(1) PixInsight こそ初心者向け

PixInsight での星野写真の処理の流れを振り返ると、まず前処理は全自動です。色合わせ(PCC)とストレッチ(ArcsinhStretch)も属人的なテクニックを必要としないので苦労しません。DBE を使った光害除去に多少の慣れが必要かと思いますが、苦労するとしたらそこくらいで、現像までの処理であれば、あまり苦労しないで非常に綺麗な画像を得ることができます。

複数のプログラムを使う不便もなければ、属人的なテクニックを必要とするトーンカーブなんかほとんど使う必要がありません。「元データが同じであれば、誰がいつ何度やっても同じ結果が得られるような処理が多い」、つまり「人を選ばない」という意味で、むしろ PI こそ天体画像処理の初心者向けプログラムであると言える面もあります。

天体写真の画像処理プログラムは、究極的には、ユーザが何も考えなくても、あるいは何ら苦労しなくても、「プログラムに元データを放り込めば後は全部プログラムが適宜処理して綺麗な画像が出来上がる」、というのが理想だと思うのですが、今のところそこまでのプログラムは存在しません。いずれはそのような AI(人工知能)が開発されると思いますが、それまでは多少の手間や苦労を甘受しなければなりません。そんな現在の状況にあって、PixInsight はその理想に最も近づいているプログラムだと思います。

「PixInsight はとっつきにくい」とよく言われることがありますが、どんなプログラムでも慣れるまでは使いにくいものです。逆に慣れ始めれば、それほど使いにくいとは思わなくなります。本連載では使い方も丁寧に説明したつもりですので、これを参考にして、まずは試しに使ってみてください。ただし、PI といえど完璧で万能なわけではありません。世の中に数多(あまた)ある画像処理プログラムの一つに過ぎないことだけは忘れないようにしましょう。

それから、天体写真の画像処理をしている方は、とかく現像後のレタッチテクニックにばかり関心を向けがちかと思います。しかし、大事なのはむしろ現像まで(すなわちストレッチまで)の工程です。第10回でも述べましたが、元データが同じであれば、天体写真の出来は、現像までの処理工程でその9割以上は決まってしまいます。同じ元データを使っても完成画像の出来栄えに差が出た場合、その差は現像までの段階で既についていたはずです。現像までの基礎的な処理こそ重要なのだと認識して、その処理の内容をよく勉強して理解していただきたいと思います。

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(2) 初心者でも気軽に天体写真を

さて、この画像を撮影した機材はこんな機材です。

13_13_equipments
図13-13. 撮影機材(雲台のみ異なる)

星野写真の機材としては、なんとも簡素な機材です。さらに、この写真ではカメラを 3WAY雲台の上に載せていますが、実際にはこれがボールタイプの自由雲台でしたのでもっと簡素な構成でした。赤道儀の SWAT-200(生産終了)は重量が僅かに 1.4kg という軽さで、そのおかげもあってカメラから三脚まで全部ひっくるめた総重量もたったの 5kg しかありません。これなら女性の細腕でも楽々持ち運べますよね。オートガイダー等の余計な機材やソフトも一切必要ありませんし、まさに「お手軽撮影」です。

天体写真ファンが集まると、ともすると自分がどれだけ特殊で凄い機材を持っているかという機材自慢の場になりがちで、そこに居合わせた幼気な初心者がドン引く姿を何度か見たことがあります(笑)。もちろん、ファンが機材や設備といった「道具」にこだわるのは何も天体写真の世界に限った話ではありません。どんな分野であっても突き詰めれば道具にこだわるようになるのは自然なことであり、大切なことです。

しかし、そもそも趣味というのは自己満足のためにやるものですから、どんな方法であれ、自分が満足しさえすればそれで良いのです。道具に満足感を求める方向性があるのなら、もっと気軽に星空を楽しむという趣味の方向性があっても良いはずです。

高価で大きな機材は持っていないけど、満天の星空には憧れる。できればそれを写真に撮ってみたい。そう考えている人は世の中に大勢いることでしょう。そんな初心者の皆さんも、ぜひお手持ちのカメラと、できれば SWAT赤道儀を持って空の暗い場所に行き、一晩中満天の星空に抱かれながらお気に入りの星空を写真に収めてみてはいかがでしょうか。そのとき、画像処理はきっとあなたの強い味方になってくれますよ。

最後になりましたが、本連載の執筆をご提案くださったユニテックの加曽利様をはじめ、このような拙文を最後までお読みいただいた寛容で根気強い読者の皆様に厚く御礼申し上げるとともに、本連載の内容が一人でも多くの皆様にとって有益となることを祈りつつ、13回(補足回を含めれば計17回)に亘る連載を締めくくりたいと思います。また、いつか撮影地で皆様にお会いできることを楽しみにしております。その際には気軽にお声がけください。どうもありがとうございました。

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<おわり>

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