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2018年9月14日 (金)

PixInsightで画像処理を始めよう ~ 最終回 嗚呼、星はいい(8) 主なレタッチ処理2

【目次】

13-1. 赤と青を強調する
 (1) Lab色空間を利用して赤っぽい領域を強調
 (2) マスクをもう少し工夫しよう
 (3) 青を強調
13-2. 最後のまとめ
 (1) PixInsight こそ初心者向け
 (2) 初心者でも気軽に天体写真を


 

前回まで12回に亘って続けてきた本連載も今回でいよいよ最終回です。今回も、まずは前回に引き続いて、主なレタッチ処理についてご紹介していきたいと思います。

 

13-1. 赤と青を強調する

13_01_org
図13-1. 元画像

ここまで、PCC で測光的な手法で色合わせをし、ArcsinhStretch でその色を保存したまま明るくしたのですから、色合いに関してはもうこれ以上何もする必要はないはずです。でも、ときには赤い星雲や青い星雲をもう少し鮮やかに目立たせて美しく仕上げたくなる、というのは人情というものでしょう。

しかし、トーンカーブ等で単純に R(あるいは B )を増やすと、赤(青)くない領域までもが赤(青)くなって、全体の色合いが変わってしまいます。なので、赤っぽいところだけをより赤く、青っぽいところだけをより青く強調する必要があります。そのためには、赤っぽいところだけ、あるいは青っぽいところだけを抽出したマスクを作れば良いのです。

そのマスクを作る方法には複数あって、最も代表的なものは、G 画像を基準に R(B)画像の方が明るいピクセルだけを抜き出す、つまり "R - G" や "B - G" といった引き算した画像をマスクにするという方法があります。しかし、ここでは別の方法を紹介しましょう。

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(1) Lab色空間を利用して赤っぽい領域を強調

それは、Lab色空間を利用するという方法です。Lab色空間と言っても厳密には何種類かあるのですが、ここでは CIE L*a*b*(CIELAB)色空間 のことを指すものとします。この Lab色空間にはその名の通り L、a、b、の3つの座標軸があります。まず、L は明度を表します。そして a は、赤(マゼンタ)か緑かを表す座標に対応していて、a が大きな値であるほどマゼンタっぽい色、小さな値であるほど緑っぽい色になります。一方 b は、黄色か青かを表す座標に対応していて、b が大きな値であるほど黄色っぽい色、小さな値であるほど青っぽい色になります。この Lab色空間で見て、赤(マゼンタ)っぽい、あるいは青っぽいピクセルを抜き出してみましょう。PixelMath(PM)に以下のように記述してみてください。

RGB/K:CIEa($T)-m
Symbols:m=0.5

13_02_pm_r_a
図13-2. PixelMath

CIEa($T) は、各ピクセルの Lab色空間での a成分の値を返してきます。したがって、m=0.5 であれば、a の座標値が 0.5 よりも大きなピクセルだけを抜き出すことになります。この PM を 図13-1 に対して実行すると次のような画像が出力されます。

13_03_output_pma
図13-3. 出力画像(STFでオートストレッチ)

これがマスクの元になります。どの辺の色を強調させたいかによって m の値を適宜変えてください。これをさらに STF や HT で調整して以下のようなマスク画像を作ります。

13_04_a_mask1
図13-4. aマスク1

元画像でとくに赤を目立たせたい領域だけが残るようにするわけですね。便宜上、これを aマスク と呼ぶことにしましょう。これを元画像にかけて、aマスクが白っぽくなっている部分の色を強調します。

色を強調するには、通常、CurvesTransformation(CT)が使われることが多いと思います。CT はこの連載でも既に何度か紹介していますが、これは所謂トーンカーブのツールです。マスクで選択された領域の赤い色を強調したければ、CT を使って以下に示すように、component selection から Red channelCIE a* component、もしくは Saturation を選択してカーブを左上に反らせます。

13_05_amask1_r
図13-5. Red channel を増幅

13_06_amask1_a
図13-6. CIE a* component(a成分)を増幅

13_07_amask1_s
図13-7. Saturation(彩度)を上げる

Lab色空間は人間の視覚に近い色空間であるためか、少し値を変えただけで色合いが大きく変わったように見えます。個人的には彩度を上げるのが良いかと思いますが、これは好みの問題ですので、一度試したうえで自分なりに選択してください。

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(2) マスクをもう少し工夫しよう

図13-4 のような aマスクでももちろん構いませんが、このマスクは明るい領域ほどより白っぽくなっていますね。これだと、元々明るかった領域の色がより強調されることになります。

明るい領域だけではなく、むしろ「暗いけど赤い領域」を目立たせるようなマスクを作ってみましょう。今度は PixelMath に次のように書いてみてください。

RGB/K:(CIEa($T)-m) / CIEL($T)
Symbols:m=0.5

CIEL($T) は、各ピクセルの Lab色空間での L成分の値、すなわち明るさです。それで割るということは、同じ程度の赤さであっても、より暗いピクセルの方が大きな値になるということです。これで作った aマスクが次の画像です。

13_08_a_mask2
図13-8. aマスク2

先ほどの 図13-4 の aマスクとはちょっと趣が異なりますね。「より赤い」だけでなく「より暗い」ピクセルがより白くなっています。このマスクを元画像にかけて CT で彩度等を強調すると、次のようになります。

13_09_amask2_s
図13-9. aマスク2で赤を強調

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(3) 青を強調

Lab色空間を利用して青っぽい領域を強調するようなマスクを作る場合には、今度は PM に以下のように書いてください。

RGB/K:m-CIEb($T)
Symbols:m=0.5

CIEb($T) は、各ピクセルの b成分です。これで、青っぽいピクセルだけを抜き出すことができます。(1)の時と同様、m の値は適宜調整してください。これを基画像に対して実行すると、次のようなマスクができます。

13_10_b_mask
図13-10. bマスク

これを bマスクと呼ぶことにしましょう。後は(1)や(2)と同様の方法で、青っぽい領域を強調することができます。

13_11_bmask_s
図13-11. 青を強調

もともと青が少ない領域なのでほとんど変わっていないように見えますが、よく見ると青い星がより鮮やかになっていることがわかります。

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13-2. 最後のまとめ

第7回の前処理から始まった星野写真の画像処理も、これにてひとまず終わりとしましょう。それでは、これまで紹介してきた処理によって仕上がった完成画像をご覧ください。

13_12_final
図13-12. 完成画像例 (クリックすると高解像度版に飛びます)

カメラが現像したJPEG撮って出しと比べると、もはや別物と言った方が良いくらいですね。あのカメラとあのレンズでこれだけの表現ができれば十分でしょう。

(1) PixInsight こそ初心者向け

PixInsight での星野写真の処理の流れを振り返ると、まず前処理は全自動です。色合わせ(PCC)とストレッチ(ArcsinhStretch)も属人的なテクニックを必要としないので苦労しません。DBE を使った光害除去に多少の慣れが必要かと思いますが、苦労するとしたらそこくらいで、現像までの処理であれば、あまり苦労しないで非常に綺麗な画像を得ることができます。

複数のプログラムを使う不便もなければ、属人的なテクニックを必要とするトーンカーブなんかほとんど使う必要がありません。「元データが同じであれば、誰がいつ何度やっても同じ結果が得られるような処理が多い」、つまり「人を選ばない」という意味で、むしろ PI こそ天体画像処理の初心者向けプログラムであると言える面もあります。

天体写真の画像処理プログラムは、究極的には、ユーザが何も考えなくても、あるいは何ら苦労しなくても、「プログラムに元データを放り込めば後は全部プログラムが適宜処理して綺麗な画像が出来上がる」、というのが理想だと思うのですが、今のところそこまでのプログラムは存在しません。いずれはそのような AI(人工知能)が開発されると思いますが、それまでは多少の手間や苦労を甘受しなければなりません。そんな現在の状況にあって、PixInsight はその理想に最も近づいているプログラムだと思います。

「PixInsight はとっつきにくい」とよく言われることがありますが、どんなプログラムでも慣れるまでは使いにくいものです。逆に慣れ始めれば、それほど使いにくいとは思わなくなります。本連載では使い方も丁寧に説明したつもりですので、これを参考にして、まずは試しに使ってみてください。ただし、PI といえど完璧で万能なわけではありません。世の中に数多(あまた)ある画像処理プログラムの一つに過ぎないことだけは忘れないようにしましょう。

それから、天体写真の画像処理をしている方は、とかく現像後のレタッチテクニックにばかり関心を向けがちかと思います。しかし、大事なのはむしろ現像まで(すなわちストレッチまで)の工程です。第10回でも述べましたが、元データが同じであれば、天体写真の出来は、現像までの処理工程でその9割以上は決まってしまいます。同じ元データを使っても完成画像の出来栄えに差が出た場合、その差は現像までの段階で既についていたはずです。現像までの基礎的な処理こそ重要なのだと認識して、その処理の内容をよく勉強して理解していただきたいと思います。

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(2) 初心者でも気軽に天体写真を

さて、この画像を撮影した機材はこんな機材です。

13_13_equipments
図13-13. 撮影機材(雲台のみ異なる)

星野写真の機材としては、なんとも簡素な機材です。さらに、この写真ではカメラを 3WAY雲台の上に載せていますが、実際にはこれがボールタイプの自由雲台でしたのでもっと簡素な構成でした。赤道儀の SWAT-200(生産終了)は重量が僅かに 1.4kg という軽さで、そのおかげもあってカメラから三脚まで全部ひっくるめた総重量もたったの 5kg しかありません。これなら女性の細腕でも楽々持ち運べますよね。オートガイダー等の余計な機材やソフトも一切必要ありませんし、まさに「お手軽撮影」です。

天体写真ファンが集まると、ともすると自分がどれだけ特殊で凄い機材を持っているかという機材自慢の場になりがちで、そこに居合わせた幼気な初心者がドン引く姿を何度か見たことがあります(笑)。もちろん、ファンが機材や設備といった「道具」にこだわるのは何も天体写真の世界に限った話ではありません。どんな分野であっても突き詰めれば道具にこだわるようになるのは自然なことであり、大切なことです。

しかし、そもそも趣味というのは自己満足のためにやるものですから、どんな方法であれ、自分が満足しさえすればそれで良いのです。道具に満足感を求める方向性があるのなら、もっと気軽に星空を楽しむという趣味の方向性があっても良いはずです。

高価で大きな機材は持っていないけど、満天の星空には憧れる。できればそれを写真に撮ってみたい。そう考えている人は世の中に大勢いることでしょう。そんな初心者の皆さんも、ぜひお手持ちのカメラと、できれば SWAT赤道儀を持って空の暗い場所に行き、一晩中満天の星空に抱かれながらお気に入りの星空を写真に収めてみてはいかがでしょうか。そのとき、画像処理はきっとあなたの強い味方になってくれますよ。

最後になりましたが、本連載の執筆をご提案くださったユニテックの加曽利様をはじめ、このような拙文を最後までお読みいただいた寛容で根気強い読者の皆様に厚く御礼申し上げるとともに、本連載の内容が一人でも多くの皆様にとって有益となることを祈りつつ、13回(補足回を含めれば計17回)に亘る連載を締めくくりたいと思います。また、いつか撮影地で皆様にお会いできることを楽しみにしております。その際には気軽にお声がけください。どうもありがとうございました。

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<おわり>

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コメント

初めまして。
こちらのブログでpixinsightの処理を拝見し最近導入致しました。
見よう見まねで処理を進めtifで保存しようとしたのですがやり方がわからず
行き詰ってしまいました。
初歩的な事だとは思いますがネット等で調べても探しきれずこちらのコメントに至りました。
是非ご教示頂けたらと思います。
何卒よろしくお願い致します。

ysさん、初めまして。
当ブログをお読みいただき、ありがとうございます。
こちらこそ、よろしくお願いいたします。

さて、ご質問の件ですが、おそらく tiffに保存して PhotoShop等の他のプログラムで読み込みたい、という意図ですよね。でしたら、以下の手順で保存してください。

① メニューバーの "FILE" から "Save As..." を選択
② ファイル保存ウィンドウの "ファイルの種類" で "TIFF files" を選択し、ファイル名と保存先を指定して "OK"
③ File Format Warning が出ても気にせず "OK"
④ TIFF Options 画面の "Sample Format" から "16-bit unsigned integer" を選択して "OK"

④がポイントです。デフォルトだと 32bit浮動小数点型になっているので、そのまま保存すると PS等で開いたときに変な画像になりますよね。そこだけお気を付けください。

以上。

蒼月城 様

回答ありがとうございます。
無事解決いたしました。
youtubeのほうも繰り返し見て勉強していきます。

ありがとうございました。

初めまして。
最近、月面着陸50周年ということもあり、天体に興味を持った者です。
淡い星雲を撮影する程の機材は持ってませんので、先ず月面を撮影、そして画像処理をしたいと思い、ここに辿り着きました。月の画像処理の第5回まで拝見しましたが、RAWからの処理をもう少し詳しく知りたいです。もしよろしければ、解説記事を書いて頂けると嬉しいです。Google+の記事に詳細が載っているのかなと思ったのですが、どうもGoogle+のサービスが終了しているようで、見ることが出来ません。勝手なお願いで申し訳ございませんが、どうぞ宜しくお願いいたします。

コメントありがとうございます。
筆者の先生の時間的な都合がつかず、解説はご容赦ください。RAWでも基本はJPEGの処理と同じで、まず階調を保持した(軟調な)元画像を作って、それらをスタックし、見栄えよくコントラスト調整やシャープネスの処理をします。ぜひチャレンジしてみてください。今後とも、よろしくお願いします。

回答ありがとうございました。自分でも勉強してチャレンジしてみようと思います。

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